雑学

小林よしのりVSプチ鹿島のトークイベントに潜入!――「フミ斎藤のプロレス講座」第10回

プチ鹿島さんFacebook

プチ鹿島さんFacebookより

 小林よしのりさんとプチ鹿島さんのトークイベント『電撃のワンナイトマッチ』を潜入取材してきた。お笑い芸人のプチ鹿島さんがプロレスについて書いた新書『教養としてのプロレス』がプチベストセラーになっている。著者の鹿島さんが「かつてプロレスファンだった」小林よしのりさんを対戦相手に指名してのトーク・ワンナイトマッチが10月6日、東京・渋谷のライブハウスでおこなわれた。

 イベント名の『電撃のワンナイトマッチ』は、鹿島さんが高校生のときに体感した藤波辰爾対木村健悟の“電撃のワンナイト・マッチ”(1987年1月14日=東京・後楽園ホール)のオマージュである。『教養としてのプロレス』の「第5章 引き受ける力を持つ」にはこういう一節がある。そのまま引用する。

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 私は真剣に思うのだが、小林よしのりが「腰が据わってる」のはプロレスファンだったことが大きいのではないか? ということだ。

 小林よしのりは猪木やUWFファンであったことを公言している。

 であれば、何度も何度もプロレスには傷つけられたはずだ。裏切られたはずだ。絶望を知ったはずだ。そんな経験と免疫が今に役立っているのではないか?(中略)

 傷つきながらプロレスファンは、プロレスを見続け、そこで何が起ころうとも引き受けてきた。それが小林よしのりの強さになっていると思うのだ。


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 いまや日本を代表する言論人である小林さんは、1953年(昭和28年)生まれの61歳だから、プロレス的にはハルク・ホーガン、藤波辰爾、渕正信らとまったく同い年である。力道山のモノクロの映像は幼いころのかすかな記憶で、昭和の高度経済成長期のプロレスは、ジャイアント馬場が“金曜夜8時”のプロレス中継(日本テレビ系)の主人公で、アントニオ猪木はその馬場をつねに追いかけるナンバー2のポジションだった。小林さんがパブリックな場所でプロレスファンとしての体験を語るのはめずらしい。

 鹿島さんは1970年(昭和45年)生まれのプロレスファンで、プロレスとめぐり逢った時点での日本のプロレス・シーンは、ジャイアント馬場の全日本プロレス(日本テレビ系)とアントニオ猪木の新日本プロレス(テレビ朝日系)のメジャー2団体時代。高校時代にUWFが出現し、週刊プロレスと週刊ゴングとファイトを毎週併読するようになり、プロレスの革命ムーブメントに心酔していった前田日明直撃世代である。

 小林さんと鹿島さんの年齢差は17歳だから、ふたりは同世代のプロレスファンではない。これはプロレスというジャンルを語り合うときには重要なファクターになる。おそらく、鹿島さんが小林さんに求めたのは、プロレスファンの後輩とプロレスファンの先輩とのエールの交換だった。トークがはじまると、小林さんは「名著ですよ」と鹿島さんの著書をいきなりほめた。

 2時間のトークは、その8割くらいがプロレスに関してであとの2割くらいがAKB48に関するはなしだったが、本コラムでは――筆者がAKB48についてまったくチンプンカンプンだったため――プロレスについての会話を抜粋していく。「昭和のプロレスファンで、いまのプロレスには疎い」と発言する小林さんにとって、プロレスとはジャイアント馬場とアントニオ猪木の物語である。

小林「力道山は力道山でね、八百長と闘った人だと思うんです。ジャイアント馬場さんのプロレスは、ロープに振るプロレス。16文キックですね。そこにはあるお約束事があるんだけれど、それが見えていても、おもしろかった。そして、アントニオ猪木です。ストロングスタイルだ。オレたちがガチだと。ストロングスタイルというテーゼ、教義をかかげちゃったから、あるいは旗をかかげたばっかりに、というかその宿命として――それが教訓といえば教訓なんですけれど――やらざるをえなかったんです。モハメド・アリとも、柔道のウィリエム・ルスカとも、極真空手とも」

 ここに出てくる“ロープに振る”についてはかんたんに解説しておく必要がある。“ロープに振る”“ロープから返ってくる”は、プロレスが好きな人とプロレスが好きではない人のいちばん古典的な会話モデルのひとつで、プロレスが好きでない人は、プロレスがフェイクであることの理由として、ひとりのレスラーがもうひとりのレスラーを“ロープに振る”と、もうひとりのレスラーは必ずまっすぐ“ロープから返ってくる”動作をとり、相手の技をわざと受けることを指摘する。

 もちろん、プロレスの試合をちゃんと観ていればすぐにわかることだけれど、ロープワークという技術はもっともっと複雑にできていて、ロープとロープのあいだを何度も走りながらのカウンター・ムーブの応酬では、相手の技をモロにもらうこともあれば、相手の技をスカすこともあるし、カウンターの動きひとつで一瞬にして形勢が逆転することもある。フェイントもあれば、フェイントのフェイントもある。でも、プロレスの試合を観ない人びと、プロレスを好きでない人たちにこれを説明するのはたいへんだ。

 わかりやすくいえば、この“ロープに振る”“ロープから返ってくる”は、プロレスを好きな人とプロレスを好きでない人のプロレスに関する議論の入り口になりやすい論点なのである。プロレスのリングで近代的なロープワークがみられるようになったのは1920年代後半から1930年代にかけてといわれ、もともとは“ロープに振る”“ロープから返ってくる”の動作ではなくて、みずからロープに走っていってロープの反動=勢いをつけてショルダーブロックで相手をぶっ倒す、という攻撃だった。フットボール出身のガス・ソーネンバーグ、ブロンコ・ナゴースキーらがポピュラーにした動きといわれている。

 小林さんも、鹿島さんも、プロレスファンとしてこの“ロープに振る”“ロープから返ってくる”のイッシューにはさんざん悩まされたのだろう。鹿島さんが『教養としてのプロレス』という本を書こうと思ったモチベーションのひとつは、どうやら21歳のときに体験したプロレスファンとしてのひとつの挫折だった。同書の「第8章 無駄なものを愛す」にはこう書かれている。プロレス・ライターだった井田真木子さんが書き下ろし作品『プロレス少女伝説』で第22回「大宅壮一ノンフィクション賞」を受賞したときのことだ。

――しかし、選考委員の立花隆(評論家、ジャーナリスト、ノンフィクション作家)が次のように語ったことを知る。

<私は、プロレスというのは、品性と知性と感性が同時に低レベルにある人だけが熱中できる低劣なゲームだと思っている。もちろんプロレスの世界にもそれなりの人生模様がさまざまあるだろう。しかし、だからといってどうだというのか。世の大多数の人にとって、そんなことはどうでもいいことである>

 このコメントを読んだとき、息が止まりそうだった。いきなり冷水をかけられた思い。びっくりした。しばらく、ゆっくりと、文字を往復して見た。やっぱりそう書いてある。

 なんて酷いことを言うんだろう。顔が紅潮するほどの怒りがこみ上げた。立花隆なら何をやっても許されるのか。

 でも「確かにそうだな」と認めてしまう自分もいたのだ。腹がたつけど的確なことを言っている。ぐうの音も出ないほどの恥辱。

 少年時代の私は「プロレスなんて好きなの?」と薄ら笑いされる恐怖がずっとあり、プロレス好きであることを隠していた。友人たちとプロレスの話もするし、盛り上がるのだけれど「ほどほどに好き」という感じを装っていた。(中略)

 すべては馬鹿にされたくなかったからである。「プロレスなんて八百長だろう。お前はそんなこともわからずに熱中しているのか」と軽蔑されたくなかったのだ。プロレスそのものより自分を馬鹿にされたくない気持ちが強かった。よく考えると狡猾で図々しい。

 あんなものがおもしろいの? という社会の軽蔑を過剰に意識し、自分はレベルが低いのだというコンプレックスを常に持っていたのである。(中略)

 私が打ち立てた反論は「人生に無駄があってもいいじゃないか」。この一点しかなかった。


鹿島「立花隆さんのはなしですけど、プロレスを、品性と知性と感性が同時に低レベルな人たちだけが楽しむもの、どうでもええものと切り捨てたんです。あれは、おそろしかった。徹底的な切り捨て方なんです。立花さんは、これは必要、これは無駄という仕分け方だけをされて生きてきた人だと思うんです。でも、無駄があったっていいんです、無駄があってもいいじゃん、と思いませんか」

⇒【後編】に続く https://nikkan-spa.jp/727978

 蛇足になるが、プチ鹿島さんと本コラム担当・斎藤文彦のトークイベントが10月21日、ニコニコ動画で生中継される。詳細は以下になります。ご興味のある読者のみなさんはこちらもチェックしてみてください。

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『教養としてのプロレス』を上梓したお笑い芸人プチ鹿島さんとプロレスライター斎藤文彦氏が品よ~く語る、秋のプロレス夜噺…。香山リカも優雅~に参戦!
教養としてのプロレス・場外乱闘篇 プチ鹿島×フミ斎藤 レフェリー香山リカ
http://live.nicovideo.jp/watch/lv194625732
10月21日(火)20:00~生放送!

※一部有料108円、チャンネル「香山リカ医院」(http://ch.nicovideo.jp/kayama)会員の方は全篇無料でご覧いただけます。

プチ鹿島さん=================

文責/斎藤文彦 イラスト/おはつ

※斎藤文彦さんへの質問メールは、こちら(https://nikkan-spa.jp/inquiry)に! 件名に「フミ斎藤のプロレス講座」と書いたうえで、お送りください。

※このコラムは毎週更新します。次回は、10月14~15日頃に掲載予定!





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