第5章:竜太、ふたたび(12)

「ここから海沿いに600キロほど西に向かうと、南オーストラリア州の州都でアデレードというのがあって、そこにはカジノがある。一都市一カジノの法規制だそうよ。寄ってみない」

 とみゆきが言った。

 クラウン・カジノで勝利してから、みゆきは調べたようだ。

 ギャンブルの魔力、断ちがたく。

「高速ばかりを走るのなら、高いカネ出して四輪駆動なんて借りる必要はなかったな」

 みゆきの「亀の子たわし」の上に掌を載せたままの竜太が応えた。

「アデレードから西オーストラリア州のパースまで、海沿いじゃなくて、内陸部のフリー・ウエイを使っても2700キロあるんだって。フリー・ウエイからちょっと外れれば、そこはもう砂漠か荒野。道はあるのだろうけれど、舗装されていないのが多いらしい。雨季には道がなくなる、なんて説明されているハイウエイまであった。そうなら、どうしても四輪駆動は必要でしょ? すごいところらしいよ」

「みゆきはいつまでに日本に帰らなくちゃならないんだ」

「フライトは、1月9日のシドニーからの夜行便」

「それじゃ、明日の朝イチで出発だ。アデレードでの宿は、なんとかなりそう?」

「人口130万の都市だから、年末でも多分大丈夫だよ」

 明日は晦日(みそか)だった。

「亀の子たわし」の中心部を、竜太は指でなぞった。

 ううん、とみゆきが鼻にかかったあえぎを漏らす。

 亀裂から粘っこい液体が滲み出していた。

「舐めて」

 みゆきが、また自分から要求した。

「さっきの俺の精液が残ってるかもしれないじゃないか」

「なに言ってるの。わたしは竜太さんの汚れたおちんちんでも、しゃぶってあげたでしょ」

 そう言われれば、竜太に返す言葉はない。

 中学生の時分から、娯楽はこっちのほう一筋で励んできた田舎育ちの女性は、21歳ながら、欲望に従順だった。

 ここいらへんは、竜太の好みである。

 どうせ愛だ恋だチョーチンだ、というわけじゃないのだし。

 ち~ん、とゴングが鳴って、

 あっち向いて、ぶすっ、

 こっち向いて、ずぼっ、

 もう、上から下からうしろから。

 の2回戦の開始だった。

 翌朝は早そうなので、そのあとはさっさと眠ろう。

    *        *        *         *

 市内を流れるトレンズ川のほとりにある‘レールウエイ・ステーション’という歴史的建造物の北側の一部にカジノがあった。

 人口130万人の都市のそれとしては、スカイシティ・アデレードの規模は、けっこう大きい。(のちに名称は、スカイシティ・グループに買収される以前の名前である‘アデレード・カジノ’に戻った)

 もっとも、新宿歌舞伎町の裏カジノ育ちの竜太にとって、どこの合法カジノでも、目を回すくらい巨大である。

 歌舞伎町では、大きなハウスでも、BJ1卓に中バカラ2卓といったところが、せいぜいのはずだ。

 小舎(コシャ)なら、中バカラがひと卓だけ、なんてハコもあった。

 そんな環境から、突然竜太は真希(まき)にメルボルンのクラウン・カジノに連れていかれたのだ。

 クラウン・コンプレックス全体は、51万平方メートルもある。4万6755平方メートルの東京ドームが11個分くらい入る計算である。

 クラウン・カジノにはドギモを抜かれたけれど、スカイシティ・アデレードの規模なら、竜太でもなんとか対応できそうだった。

 すくなくともゲーミング・フロアの中で、迷子になることはあるまい。

⇒続きはこちら 第5章:竜太、ふたたび(13)

PROFILE

森巣博
森巣博
1948年日本生まれ。雑誌編集者を経て、70年代よりロンドンのカジノでゲーム賭博を生業とする。自称「兼業作家」。『無境界の人』『越境者たち』『非国民』『二度と戻らぬ』『賭けるゆえに我あり』など、著書多数。