ばくち打ち
第6章:振り向けば、ジャンケット(23)
「どうですか、決めてくれましたか? 年内までにだいたいの人事を整え、そういう名前にはならないかもしれませんが、新年からはジャンケット部門を発足させたいのですよ」
と電話の向こうで高垣が言った。
リゾートJJというのは、もともとパチンコ・ホール大手の経済研究所だったところだ。
日本でもカジノ解禁が確実視された8年ほど前に、出資者にゼネコン大手・不動産大手・メディアの数社を加え、社名を変えてパチンコ臭を消してから「IR」誘致のコンサル会社に特化した。
この年(2018年)になって、やっと『特定複合観光施設区域整備法(=IR整備法/カジノ設置法)』が国会で成立したので、その活動が急に活発化している。
法案成立の8年も前から活動していた、と驚いてはいけない。
三井物産戦略研究所などは、日本でのカジノ公認化を喫緊の課題として、20年も前から研究を積み重ねてきた。最近になって「IR参入」などと言っている企業や自治体は、10周回も20周回も遅れたところを走っているのである。
「でも『IR設置法』ではジャンケットは禁止、となっていますよね。わたしなんか出る幕がないじゃないですか」
PCのスクリーンで、広域指定暴力団二次団体の「理事長」・横田の賭博実績を調べながら、都関良平(とぜきりょうへい)はつづけた。
すぐに横田のベット履歴がスクリーンに現れた。
悪くない。
平均ベット・5万HKDといったところか。日本円にすれば、一手75万円である。
このハウスのジャンケット・ルームでは中間値あたりなのだが、横田はテーブルに坐っている時間が長くて、ひと滞在で10億円から20億円相当のローリングをはじき出していた。
「これまでの法案成立への討論をみていると、打ち手のゲーム賭博の勝ち金には課税されることになっていますよね。スロットでのジャックポットならともかく、BJ(ブラックジャック)やバカラでの勝ち金に課税するなんて、そんなバカなことをやっている国は、世界中にない。おまけに、おそらく100万円以上のドロップ(=バイ・イン)は、国税に報告されるようになる。そんなカジノに日本国内の大口の打ち手が行くものでしょうか。すくなくともうちの顧客で『行く』と言っている打ち手は一人もいない。日本にカジノができても、連中は相変わらず、海外のカジノに出掛けるそうですよ」
と良平。
「それはそうなんですけれど、あの法案には7年後に見直す、という文言をわざわざ入れてあります。つまり7年後には、カジノの設置数・ジャンケットの扱いともに、書き換えられるはずです。それにホンネはどうあれタテマエ上は『海外からの観光客誘致』なんです。『観光立国』の戦略のひとつに位置付けられています。海外からも大口の打ち手を誘致する方法を考えなくてはならない。それも、いわゆるジャンケット業者を排除した上で、です」
と高垣。そんなことがはたして可能なのだろうか? (つづく)