ばくち打ち
第6章第2部:振り向けば、ジャンケット(10)
2013年に、北京政府が「蠅も虎も叩く」とする反腐敗政策を掲げたからだった。
北京政府の意を受けて、マカオ政府によるカジノ事業者およびジャンケット事業者への規制も厳格化していく。
それだけではなくて、香港やマカオにある銀行への監査・監督が強化された。
おかげで大陸からマカオへ「オモテに出せないカネ」の移動が、不可能になったとまでは言わないが、きわめて困難となってしまったのである。
マカオへの独自の資金移動ルートをもたない多くの中小ジャンケット事業者たちが、ライセンスの更新手続きを断念していく。
大手事業者のサブに組み込まれたり、廃業したジャンケット事業者たちも多い。
それゆえ2013年からわずか5年間で、マカオの登録事業者数は半減したのだった。
至極当然な結果として、マカオのカジノ「売り上げ」の80%前後を占めていたプレミアム・フロアやジャンケット・ルームから、客足が遠のく。「売り上げ」の50%を割ってしまったハウスまであった。
しかし、いくら規制を強化したところで、博奕(ばくち)がなくなるものではなかろう。
これは歴史が証明している。
マカオでは博奕が打てなくなった大陸からの大口の打ち手、とりわけ高級官僚とか「紅頂(=共産党政権と深く結びついた産業人)」たち、およびそれを仲介するジャンケット事業者は、規制の緩い次なる地を目指した。
ここ数年でマニラとサイパンで開業したカジノが急成長している理由が、ここにある。
澳門博彩監察協調局から正規のジャンケット・ライセンスを与えられている日本の事業者は、2018年初頭の段階では2件のみ。法人と個人が1件ずつだ。
あとは、大手事業者の口座を借りるサブだった。
『三宝商会』は、商法にある「一人有限公司」の制度を利用し、マカオの事業者として登録してあった。したがって、実際の仕事は日本関連がほとんどなのだが、統計上は日本の事業者として数えられていない。
マカオにおけるジャンケット登録事業者の個人ライセンス所有者の方の成績はわからないが、法人ライセンスの方は苦戦しているらしい、と良平は風の噂できいていた。
* * * *
大阪での集金も、なぜかトラブルなく終わった。
トラブルのない集金がつづくのは、珍しい。
想えば、良平とこの男との付き合いは永かった。
それだけではなくて、新規の客もよく紹介してくれる。
ジャンケットでは、クチコミの影響力が大きい。いまのところ、新聞やテレビに広告を打てる業界ではなかった。
釜本とは、マカオにまだラスヴェガス資本が入る前からの付き合いだから、もうかれこれ15年にはなるのだろうか。
それゆえ釜本には、前回の滞在の際、乞われてカネを廻したのだった。
登録上は不動産業者だが、実際は「地面師」と呼ばれる商売をやっていた。
本当の所有者には無断で、なりすましを仕立て、その土地を売っ払ってしまうのだ。
本来の所有者が登記移転に気づいた頃には、すでにその土地に関し数回の売買が繰り返されている。「善意の第三者」の所有となっていて、最後にババをつかんだ奴が、泣きを見た。(つづく)