ばくち打ち
第6章第2部:振り向けば、ジャンケット(13)
翌日午後、都関良平(とぜきりょうへい)は六本木にあるリゾートJJ社を訪ねた。
リゾートJJ社のオフィスは、六本木交差点を飯倉片町に向かう外苑東通りに面したビルの中にあった。
約束の3時に余裕を持って行ったのは、大きなビルだと、中に入ってからけっこう手間取ると考えたからである。
でもそれは、要らぬ心配だった。
6階建ての雑居ビルで、通された応接室には、すでにリゾートJJ社の社長・高垣と、60歳代の男が待っていた。
「こちらは、S社で執行役員を務める柳沢さん」
高垣から紹介されて、良平は名刺を交換した。
S社というのは、リゾートJJ社の親会社にあたる。
S社は品川に本社を置く、パチンコ台メーカーの大手だった。十数年前から、日本でのカジノ開業にかかわり戦略的に動いている、と良平は聞いていた。
「で、『IR整備法』は成立したとしても、実際の進捗状態はどうなっているのですか?」
良平は単刀直入に質問した。
「調整が難しくて、まだ五里霧中といったところですな。大阪万博に合わせて、その前年までには開業させたいところなのでしょうが、それはもう無理な状態になっている」
と高垣が応える。
「どの都市が選ばれるのですか?」
「大阪は当確、あと東京はゆずれないところなんでしょう。残りの1件を九州と北海道と中部が競い合う、というのが我々の感触です」
ずるずると音を立てて茶を飲んだ柳沢が言った。
「東京なのですか。マカオの大手事業者の間では、横浜埠頭らしいと聞いたのですが」
「横浜は利権が複雑すぎる。どういう事情かはまだわからないのですが港湾関係の大ボスが、突然カジノに反対しだした」
その話は、マカオまで聞こえていた。
そもそもこの大ボスの父親は、I会U一家の初代組長だった人である。
I会は広域指定暴力団だし、そこのU一家は関東では知られた博徒集団だ。
その長男が、「横浜でのカジノ建設断固反対」を唱えだした。
父親と子どもの人格はまったく別物だろうが、それでも良平はいろいろと裏の事情を探ってみたい気に駆られた。
幼少の頃から博奕が及ぼす実害を見続けてきたからなのか、はたまたまったく別の事情を抱えているからなのか。
「政府は、2021年前後に、第一サイクルの『区域認定』をして、その7年後に『区域認定数』を見直し、つまり認定数を追加する予定だそうです。それだけでも、いかに利権が複雑に絡み合っているかわかりますよね」
と高垣が言った。
「事業者はどうなるのですか?」
と良平。
ここいらへんは、カジノ関係者のすべてが最大の関心をもつところだ。
「ラスヴェガスの大手3社、LVSとMGMとWYNN、およびマカオのメルコ、香港の銀河集團、マレーシアのゲンティン、この6社が団子状で向こう正面を走っています。お互いにたたき合いタレてくれれば、他のラスヴェガス資本や韓国勢あたりの捲(まく)りもありうる。ヨーロッパのCAIや弱小の連中は、認定数追加でのチャンスを狙っているのでしょう」
と柳沢。
「第一サイクルの『区域認定』まで時間があればあるほど、そしてそれが決まってからでもあと7年間、永田町や霞が関にとっては、いろいろと美味しい余禄がつくわけですから」
柳沢がにやりと笑う。(つづく)