検索
新着
ニュース
エンタメ
ライフ
仕事
恋愛・結婚
お金
スポーツ
グラビア
サブスク
トップ
日刊SPA!PLUS
共産主義支配100年! ウクライナの悲劇
2018年09月28日
共産主義支配100年! ウクライナの悲劇
グレンコ・アンドリー
<文/グレンコ・アンドリー『ウクライナ人だから気づいた日本の危機』連載第2回>
ロシア帝国から独立するも、すぐにソ連に組み込まれたウクライナ
ウクライナとその周辺(Google Mapsより)
さて、今回は、日本とウクライナが受けた共産主義の被害について具体的に述べたい。まずはウクライナから。
ウクライナの略史(外務省ウェブサイト)
1917年の時点ではウクライナはロシア帝国とオーストリア=ハンガリー帝国に支配されていた。本来、この両帝国崩壊後に、ウクライナは独立を果たすはずであった。 なぜなら、当時の世界の流れでは、複数の民族を支配している帝国が崩壊する時、その諸民族が独立し、民族国家を作るからだ。その流れによって、第一次世界大戦後、ヨーロッパではポーランド、チェコスロバキア、フィンランド、リトアニア、ラトビア、エストニアが独立し、スロベニア、ボスニアとクロアチアが南スラブ連合であったユーゴスラビアに入った。この諸民族の解放独立の流れにはウクライナもあった。 実際、1918年にウクライナは独立した。しかし、直ぐにボリシェビキの赤軍はウクライナを攻めこんだのだ。1918年の3月にドイツ帝国とソビエト・ロシアの講和条約によって、赤軍はウクライナから撤退し、ウクライナの独立を認めた。 しかしドイツ帝国の降伏、更には崩壊の後、ボリシェビキはウクライナの独立を認めるという約束を破り、1919年から再びウクライナを攻撃した。そして最終的にウクライナ西部以外のウクライナを占領し、新しく作ったソビエト連邦に組み込んだ。ウクライナは赤軍と戦争していたが圧倒的な戦力の差のため、敗北してしまった。 敗北の最も大きな理由は戦力の差であるが、それだけではない。ボリシェビキのプロパガンディストが大量にウクライナの中に入り込み、農民層や労働層を洗脳したのだ。当然、独立したばかりのウクライナはこのような宣伝戦に対応できず、ウクライナ国内にボリシェビキへの協力者も出現した。また、指導層の中には保守的な国家主義者だけではなく、お花畑的な社会民主主義者も相当数存在しており、国家の基本理念をめぐって対立していた。そのため、強い民族国家を築くことは不可能だった。 つまり、国内が一致団結しなかったため、民族が一丸となり赤い化け物に対抗することが出来なかったのだ。
過酷だったソ連の支配
ソ連の支配はウクライナの歴史上、最も過酷なものだった。それまで、ウクライナはポーランドやロシア帝国に支配されていた。ロシア帝国の支配も惨憺たるものだったが、共産主義国家ソ連の支配は想像を絶するほど残虐極まりなかった。 形式上、ソ連は法的手続きを経て成立された。共産主義者の狡賢さはここにおいても明らかである。赤軍のウクライナ占領後、ソビエト・ロシアがウクライナの併合を宣言したのではない。共産主義者は傀儡国家ソビエト・ウクライナの成立を宣言し、そのソビエト・ウクライナがソビエト・ロシアとの連邦を「希望した」という形をとったのだ。 またソ連では、階級の廃止や平等が謳われ、後にできたソ連憲法では、表現の自由、集会の自由が明記された。勿論これが出鱈目であることは誰にでも分かるだろう。 そして、ソ連は形式上構成国の民族文化や伝統、言語の自由な発展の承認を公式に宣伝していた。法律や国家の宣伝だけを見れば、ソ連は自由と平等の楽園のように思える。しかし現実は宣伝されたものと真逆だった。表現・集会の自由など当然存在せず、反対派は徹底的に排除された。また、それぞれの民族の伝統文化や言語の自由な発展が形式上認められていたが、それが民族意識の上昇に繋がると判断されると、徹底的に弾圧を加えた。ウクライナの場合はまさにそうだった。 それ故、1920年前半にウクライナ語の使用が認められても、言葉の働きが民族アイデンティティの上昇や民族の覚醒と連関すると考えられ、次第にウクライナ語に対し、ソ連共産党幹部が警戒するようになった。
農民層を潰せ! 「人工飢餓」による大量殺戮
全体的にウクライナ人が民族意識を抱くようになることを共産党は非常に恐れていた。何故なら、ソ連を構成していた民族の中でウクライナ人はロシア人の次に多く存在していたからである。また、立地的に重要で、資源の豊かなウクライナが離脱すれば、ソ連が成り立たなくなる。したがって、ソ連にとって全ての構成国の中でウクライナを失うことは最大の損失を意味していた。 実際、1920年代にウクライナで頻繁にソ連支配に対する蜂起が起きていた。ウクライナ人は自由のない全体主義体制や、これまでの生活様式を破壊する農業の集団化に対して反発し、立ち上がっていた。 蜂起を弾圧するために毎回、ソ連当局が治安部隊を出動させなければならず、ソ連からすれば蜂起は非常に厄介なものだった。そしてウクライナのこういった状況を共産党幹部は恐れていた。これについて、スターリンは有名な言葉を残している。即ち、「このままでは我々はウクライナを失うかもしれない」と。 だから共産党幹部はウクライナの民族アイデンティティを徹底的に潰すことにした。そのために、そのアイデンティティを最も色濃く保っていた農民層の大量虐殺を起こした。この農民層を潰せば、ウクライナ民族を骨抜きにできると思っていたのだ。そして、残されたウクライナ人を「ソ連人」として作り変えることが最終目的であった。 農民を大量に殺すために、ソ連当局は農民から全ての食料を没収した。その口実として、都市部で食料が足りない、或いは輸出するために食料が必要だと言っていた。しかし、文字通り一切の食料を没収されたので、明らかに農民を餓死にさせることが目的だったと言えよう。しかも食料がなくなった地域から誰も逃亡せぬよう、道路も封鎖された。 ソ連はこのような人工飢餓やその規模の隠蔽を企てたため、ソ連公式の見解では、不作のため限定的な飢餓が発生したとされている。人工飢餓の犠牲者数はまだ確定されていないが、当時の人口統計や出生率などの分析によれば、飢餓で200万人から600万人が死亡したと推測されている。
教育とプロパガンダでソ連への愛国心を強制
この人工飢餓以外にも、スターリン時代にはウクライナのエリート層が排除された。独立を意識していたウクライナの運動家、作家や芸術家は処刑、或いは自殺に追い込まれた。 このスターリンの大虐殺のため、民族の芯が取り除かれ、アイデンティティも殆ど喪失されることとなった。ソ連は残ったウクライナ人を洗脳し、「ソ連人」として、そのアイデンティティを改変しようとした。 第二次世界大戦の際、ウクライナは独ソ戦争の戦場になり、再び大打撃を受けた。ウクライナ人の4人に1人は死亡してしまった。ウクライナ人は大量にソ連の赤軍に動員され、ドイツ軍との戦争に駆り出された。ソ連軍は焦土作戦を取り、ウクライナを焼け野原にしてしまった。 スターリンの死亡後、大量殺戮は減少したが、民族の弾圧や徹底的な洗脳はソ連崩壊まで絶え間なく続いていた。ソ連が行った教育では、ソ連という「祖国」に対して愛国心を持たなければならなかった。 しかし自国、つまりウクライナに対して愛国心を持つことは絶対に許されなかった。自国に対して愛国心を持つ者はブルジョワジー、ナショナリストやファシストの残党としてレッテルを貼られ、徹底的に弾圧された。またソ連人であることを誇りに思うよう促され、ウクライナ人であることに対して、誇りを持つことは禁止された。このような意識構造を作り上げるために、ソ連の教育や国家プロパガンダは全力を尽くした。
独立後も解けない洗脳
ソ連崩壊によりウクライナは独立を果たしたが、ソ連による洗脳の呪縛から突如解放されることはなかった。独立しても国民の大多数がソ連の常識を引き摺っていた。その常識は、ソ連が偉大な祖国であり、ウクライナの独立にはあまり価値がないというものであった。また、ソ連時代の宗主国であるロシアは友好国、姉妹国であるという認識も根強く残った。 ウクライナの指導層の殆どはソ連共産党の元党員だったので彼等は国家発展に尽力せず、私腹を肥やすことだけに専念した。そしてソ連の常識を引きずっている国民はこのような人間を何回も選挙で当選させたのだ。 このように、ソ連の呪縛が愛国心のない国民と指導者を生み出し、ウクライナの独立後の発展は非常に困難となった。この状況が次の被害の原因となった。
2014年、再びロシアの侵略
発展に至ることなく、弱小国家となったウクライナは2014年にロシアに侵略された。ロシアの侵略による被害は、完全に共産主義が原因である。もし、以前にウクライナが共産主義による洗脳を受けず、健全な国家発展を遂げていたら、ロシアの攻撃は不可能だったであろう。 結局、現在でも被害を被っているウクライナは、既に100年以上、1917年から2018年に至るまで連綿と共産主義からの大打撃を受けていると言える。
【グレンコ・アンドリー】
1987年ウクライナ・キエフ生まれ。2010~11年、早稲田大学へ語学留学で初来日。2013年より京都大学へ留学、修士課程修了。現在、京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程で本居宣長について研究中。京都在住。2016年、アパ日本再興財団主催第9回「真の近現代史観」懸賞論文学生部門で「ウクライナ情勢から日本が学ぶべきこと――真の平和を築くために何が重要なのか」で優秀賞受賞。
グレンコ・アンドリー
1987年ウクライナ・キエフ生まれ。2010~11年、早稲田大学へ語学留学で初来日。2013年より京都大学へ留学、修士課程修了。現在、京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程で本居宣長について研究中。京都在住。2016年、アパ日本再興財団主催第9回「真の近現代史観」懸賞論文学生部門で「ウクライナ情勢から日本が学ぶべきこと――真の平和を築くために何が重要なのか」で優秀賞受賞。月刊情報誌
『明日への選択 平成30年10月号』
(日本政策研究センター)に「日本人に考えてほしいウクライナの悲劇」が掲載。
⇒日刊SPA!PLUS 記事一覧に戻る
テキスト アフェリエイト
新Cxenseレコメンドウィジェット
この特集の次回記事
このままでは日本はウクライナの二の舞になる!ロシアの侵略を招いたウクライナの教訓
2022.03.07
▲
ウクライナ人だから気づいた日本の危機の一覧へ
おすすめ記事
おすすめ記事
Cxense媒体横断誘導枠
余白
Pianoアノニマスアンケート
この記者は、他にもこんな記事を書いています
「クリミア半島はソ連からウクライナへのプレゼント」というウソ
このままでは日本はウクライナの二の舞になる!ロシアの侵略を招いたウクライナの教訓
ウクライナは世界第三位の核兵器保有国の地位をなぜ放棄したのか/グレンコ・アンドリー
ハッシュタグ
PLUS
ウクライナ
ソビエト
ソ連
ロシア
共産主義
歴史
社会・政治
Tweet
日刊SPA!の人気連載
結婚につながる恋のはじめ方
マンガで稼いだカネを怪しい投資にブッ込んでみた
人に99%「YES」と言わせる ひろゆき構文
僕は路傍のジョン・レノンに出会った
マネー(得)捜本部
メンズファッションバイヤーMB
ファストファッション、全部買ってみた
ビビルマン
ゴーマニズム宣言
連載一覧を見る
ハッシュタグ
PLUS
ウクライナ
ソビエト
ソ連
ロシア
共産主義
歴史
社会・政治
Tweet
おすすめ記事
24時間更新
人気ランキング
「パチンコ店のサクラ」で月40万円稼いだ44歳。怪しまれないために存在した“ルー...
2024年03月22日
人気セクシー女優らがAV新法改正に涙の訴え!「やめたくない」「声を挙げてもいいで...
2024年03月23日
家の駐車場を“一面の”砂利やアスファルトにしてはいけないワケ。「タイヤ痕が残らな...
2024年03月20日
“激安焼肉食べ放題店”の元店員が語る「自分だったら絶対に注文しないメニュー」4選...
2024年03月19日
NTTを50歳で早期退職、給料3割減でグループ会社に再雇用…退職金の総額に嘆き―...
2024年03月24日
新着記事
写真集シリーズ『旬撮GIRL Vol.18』発売! カバーガール・豊田ルナ、櫻井音乃の掲載カット公開
2024年03月28日
1文字1円未満だったWebライターが“文字単価”を「6年間で約20倍に」上げるまで
2024年03月28日
文字単価を6年間で20倍に!プロが明かす“稼げるライター”になる11個の秘訣[お仕事をもらう編]
2024年03月28日
國友公司が明かす、AI時代にも稼げる“インタビュー”と“街ネタ”取材の実践的テクニック
2024年03月28日
1ヶ月で辞めた新入社員の退職理由「変えられなかった寝る前の習慣」に困惑
2024年03月28日
孤独のグルメ~食文化応援企画~
ビール2:黒ビール1。人気の『マルエフ』を「ワンサード」で飲んでみた!
2023年11月20日
PR
美味しいビールで酷暑を乗り切ろう!孤独のグルメ原作者が熊本の名店で『マルエフ』を味わう
2023年08月10日
PR
『孤独のグルメ』のオリジナル デジタルトレカがもらえる!「ひとり飯をみんなで楽しむプロジェクト」の第一弾がスタート!
2022年12月02日
HARBOR BUSINESS Online 一覧
サッカーW杯日朝平壌決戦の行方。カギは定期便と人的往来再開か
2024年03月06日
政治の犠牲になった能登地震<著述家・菅野完>
2024年02月09日
『レジリエンスの時代 再野生化する地球で、人類が生き抜くための大転換』 著者のジェレミー・リフキンさんに聞く
2024年02月01日
勝SPA!一覧
元ガールズ女王が「ビッグレースの予想を的中させるコツ」を解説。‟大穴をあける期待ができる選手”の特徴
2024年03月24日
パチンコ新機能「ラッキートリガー」が大好評。ホール関係者が「好評なのに甘くできないワケ」を暴露
2024年03月23日
平成初期に愛された「ファンキードクター」が29年ぶりに復活!一撃万発オーバーのスペックに注目
2024年03月23日
はじめての副業一覧
”稼げない副業”に実は共通している特徴…「時間をかけてもムダ」とプロが警告
2024年02月10日
60代でも月2万~5万円稼げる“無理のない副業”。再雇用で減った給料を補塡
2024年02月06日
「汚ねぇな、出ていけ!」60代男性が目の当たりにした“シニア派遣の闇”。給料カットや交通費ゼロもザラ
2024年01月17日
募集
<扶桑社 採用情報>のお知らせ
2024年03月12日
女子SPA!、日刊SPA!の広告営業職を募集中です!
2023年12月26日
週刊SPA!編集部 編集者募集!
2023年03月08日
インフォメーション
SPA!最新号表紙は横野すみれ! 天野ききが「このあと、どうする?」登場!!
2024年03月26日
辻りりさ、最新デジタル写真集を発売! パーフェクトなプロポーションを披露!!
2024年03月25日
横野すみれ、最新デジタル写真集「ふわふわもっちり」が発売!
2024年03月22日
週刊SPA! 最新号
週刊SPA!4/2号(3/26発売)
横野すみれ
Amazonで購入する
定期購読する
バックナンバーはこちら
SPA! 最新の関連書籍一覧
「ルフィ」の子どもたち
92歳、広岡達朗の正体
俺の夜、バカサイ_バナー枠
共産主義支配100年! ウクライナの悲劇
ロシア帝国から独立するも、すぐにソ連に組み込まれたウクライナ
ウクライナとその周辺(Google Mapsより)
ウクライナの略史(外務省ウェブサイト)
過酷だったソ連の支配
ソ連の支配はウクライナの歴史上、最も過酷なものだった。それまで、ウクライナはポーランドやロシア帝国に支配されていた。ロシア帝国の支配も惨憺たるものだったが、共産主義国家ソ連の支配は想像を絶するほど残虐極まりなかった。 形式上、ソ連は法的手続きを経て成立された。共産主義者の狡賢さはここにおいても明らかである。赤軍のウクライナ占領後、ソビエト・ロシアがウクライナの併合を宣言したのではない。共産主義者は傀儡国家ソビエト・ウクライナの成立を宣言し、そのソビエト・ウクライナがソビエト・ロシアとの連邦を「希望した」という形をとったのだ。 またソ連では、階級の廃止や平等が謳われ、後にできたソ連憲法では、表現の自由、集会の自由が明記された。勿論これが出鱈目であることは誰にでも分かるだろう。 そして、ソ連は形式上構成国の民族文化や伝統、言語の自由な発展の承認を公式に宣伝していた。法律や国家の宣伝だけを見れば、ソ連は自由と平等の楽園のように思える。しかし現実は宣伝されたものと真逆だった。表現・集会の自由など当然存在せず、反対派は徹底的に排除された。また、それぞれの民族の伝統文化や言語の自由な発展が形式上認められていたが、それが民族意識の上昇に繋がると判断されると、徹底的に弾圧を加えた。ウクライナの場合はまさにそうだった。 それ故、1920年前半にウクライナ語の使用が認められても、言葉の働きが民族アイデンティティの上昇や民族の覚醒と連関すると考えられ、次第にウクライナ語に対し、ソ連共産党幹部が警戒するようになった。農民層を潰せ! 「人工飢餓」による大量殺戮
全体的にウクライナ人が民族意識を抱くようになることを共産党は非常に恐れていた。何故なら、ソ連を構成していた民族の中でウクライナ人はロシア人の次に多く存在していたからである。また、立地的に重要で、資源の豊かなウクライナが離脱すれば、ソ連が成り立たなくなる。したがって、ソ連にとって全ての構成国の中でウクライナを失うことは最大の損失を意味していた。 実際、1920年代にウクライナで頻繁にソ連支配に対する蜂起が起きていた。ウクライナ人は自由のない全体主義体制や、これまでの生活様式を破壊する農業の集団化に対して反発し、立ち上がっていた。 蜂起を弾圧するために毎回、ソ連当局が治安部隊を出動させなければならず、ソ連からすれば蜂起は非常に厄介なものだった。そしてウクライナのこういった状況を共産党幹部は恐れていた。これについて、スターリンは有名な言葉を残している。即ち、「このままでは我々はウクライナを失うかもしれない」と。 だから共産党幹部はウクライナの民族アイデンティティを徹底的に潰すことにした。そのために、そのアイデンティティを最も色濃く保っていた農民層の大量虐殺を起こした。この農民層を潰せば、ウクライナ民族を骨抜きにできると思っていたのだ。そして、残されたウクライナ人を「ソ連人」として作り変えることが最終目的であった。 農民を大量に殺すために、ソ連当局は農民から全ての食料を没収した。その口実として、都市部で食料が足りない、或いは輸出するために食料が必要だと言っていた。しかし、文字通り一切の食料を没収されたので、明らかに農民を餓死にさせることが目的だったと言えよう。しかも食料がなくなった地域から誰も逃亡せぬよう、道路も封鎖された。 ソ連はこのような人工飢餓やその規模の隠蔽を企てたため、ソ連公式の見解では、不作のため限定的な飢餓が発生したとされている。人工飢餓の犠牲者数はまだ確定されていないが、当時の人口統計や出生率などの分析によれば、飢餓で200万人から600万人が死亡したと推測されている。教育とプロパガンダでソ連への愛国心を強制
この人工飢餓以外にも、スターリン時代にはウクライナのエリート層が排除された。独立を意識していたウクライナの運動家、作家や芸術家は処刑、或いは自殺に追い込まれた。 このスターリンの大虐殺のため、民族の芯が取り除かれ、アイデンティティも殆ど喪失されることとなった。ソ連は残ったウクライナ人を洗脳し、「ソ連人」として、そのアイデンティティを改変しようとした。 第二次世界大戦の際、ウクライナは独ソ戦争の戦場になり、再び大打撃を受けた。ウクライナ人の4人に1人は死亡してしまった。ウクライナ人は大量にソ連の赤軍に動員され、ドイツ軍との戦争に駆り出された。ソ連軍は焦土作戦を取り、ウクライナを焼け野原にしてしまった。 スターリンの死亡後、大量殺戮は減少したが、民族の弾圧や徹底的な洗脳はソ連崩壊まで絶え間なく続いていた。ソ連が行った教育では、ソ連という「祖国」に対して愛国心を持たなければならなかった。 しかし自国、つまりウクライナに対して愛国心を持つことは絶対に許されなかった。自国に対して愛国心を持つ者はブルジョワジー、ナショナリストやファシストの残党としてレッテルを貼られ、徹底的に弾圧された。またソ連人であることを誇りに思うよう促され、ウクライナ人であることに対して、誇りを持つことは禁止された。このような意識構造を作り上げるために、ソ連の教育や国家プロパガンダは全力を尽くした。独立後も解けない洗脳
ソ連崩壊によりウクライナは独立を果たしたが、ソ連による洗脳の呪縛から突如解放されることはなかった。独立しても国民の大多数がソ連の常識を引き摺っていた。その常識は、ソ連が偉大な祖国であり、ウクライナの独立にはあまり価値がないというものであった。また、ソ連時代の宗主国であるロシアは友好国、姉妹国であるという認識も根強く残った。 ウクライナの指導層の殆どはソ連共産党の元党員だったので彼等は国家発展に尽力せず、私腹を肥やすことだけに専念した。そしてソ連の常識を引きずっている国民はこのような人間を何回も選挙で当選させたのだ。 このように、ソ連の呪縛が愛国心のない国民と指導者を生み出し、ウクライナの独立後の発展は非常に困難となった。この状況が次の被害の原因となった。2014年、再びロシアの侵略
発展に至ることなく、弱小国家となったウクライナは2014年にロシアに侵略された。ロシアの侵略による被害は、完全に共産主義が原因である。もし、以前にウクライナが共産主義による洗脳を受けず、健全な国家発展を遂げていたら、ロシアの攻撃は不可能だったであろう。 結局、現在でも被害を被っているウクライナは、既に100年以上、1917年から2018年に至るまで連綿と共産主義からの大打撃を受けていると言える。 【グレンコ・アンドリー】 1987年ウクライナ・キエフ生まれ。2010~11年、早稲田大学へ語学留学で初来日。2013年より京都大学へ留学、修士課程修了。現在、京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程で本居宣長について研究中。京都在住。2016年、アパ日本再興財団主催第9回「真の近現代史観」懸賞論文学生部門で「ウクライナ情勢から日本が学ぶべきこと――真の平和を築くために何が重要なのか」で優秀賞受賞。このままでは日本はウクライナの二の舞になる!ロシアの侵略を招いたウクライナの教訓
「クリミア半島はソ連からウクライナへのプレゼント」というウソ
このままでは日本はウクライナの二の舞になる!ロシアの侵略を招いたウクライナの教訓
ウクライナは世界第三位の核兵器保有国の地位をなぜ放棄したのか/グレンコ・アンドリー