「全裸の客に激怒されていた」ラブホ清掃の同僚が失踪し、警察沙汰になった“まさかの理由”
僕は上京した18歳から26歳の現在に至るまで、仕事が続かず様々な職場で働いた。その中でも比較的長く働き、多くの経験をしたのがラブホテル清掃だ。ラブホテルでの経験なんてせいぜい単調な清掃業務だけだろうと思われがちだが、実は面倒な場面も多い。例えば泥酔客の対処、部屋前でのコスプレなどの貸し出し、AV会社やオトナのお店からの電話対応など、細々と色々やらされる。
とはいえ、都内でも屈指の回転率の悪さを誇るであろうラブホテルだったので、平日のほとんどはお菓子を食べながら昼ドラをぼんやり見ているだけだった。そんな環境にも関わらず従業員はほとんど定着せず、一部の古株社員を除けば僕が働き出してから退職するまでの2年間で残っていた人間はひとりもいなかった。はじめはなぜ人がやめるのか理解できなかったが、働くうちに段々とここにいてはいけないと考えるようになり、結局僕自身も退職に至った。
そんなどこか問題のあるラブホテルの内側を実際にラブホテルで起こった出来事や同僚を交えて伝えていきたい。
ともに働く中で最も印象的だった従業員が50代のフィリピン人女性「ローズ」である。
ローズは遅刻魔で、おまけに重度のギャンブル中毒者。そのくせ仕事は早い。前職のアパホテルで磨いた清掃の腕はどうやら本物のようで、当時20代前半だった僕の倍のスピードで部屋の清掃をこなしていた。“典型的なフィリピン人”などというと言葉が悪いが、彼女はどこまでも僕が思うそれに近かったように思う。怠惰で、朝は寝坊してくるし、仕事のやる気も薄い。一方で、楽観的で、底抜けに明るい。人間関係を作っていくのが抜群にうまく、彼女を悪く言う人間は誰もいなかった。
僕らが働いていたのは場末のラブホテルだったので平日はひどく暇で、その日もいつものように休憩室まで響いてくる喘ぎ声にうんざりしながら昼ドラを眺めていた。するとローズが「お兄ちゃん、ちょっと私おやつ買ってくるね」と言い残してそそくさと出ていった。ローズがいなくなっても、フロント担当のおばちゃんと僕は待機しているので何の問題もない。テキトーに返事をし、また視界を昼ドラに戻した。
そこから30分、1時間とローズが戻ってこない。結局ローズが戻ってきたのは出て行ってから2時間が経った15時過ぎ。息を切らす彼女の手には、大量のお菓子と札束が握られていた。
「たくさん出ちゃって……ごめんね」
近くのパチンコ屋に行っていたのだろう、いつものことだ。彼女は僕とフロントのおばちゃんに5万円ずつ手渡し、ひたすら打っていた台について語り続けた。これはギャンブルへの欲求が抑えきれない彼女にとっての口止め料のようなものだ。彼女がラブホ清掃の安月給からどうやってパチンコを打つお金を捻出しているかは謎だったが、お金がなかった僕にとって彼女はありがたい収入源だったので、ひたすらそれに相槌を打ちながら避妊具を小分けし、部屋の清掃が発生するのを待った。
サービスタイムが終わる18時前になるとようやくちらほらと清掃が発生し、交代の18時まで忙しく動き回ることになる。だいたいローズとは毎日こんな感じで過ごしていたのだが、彼女は数か月後にホテルの客室で大事件を起こし永遠に会えない相手になってしまった。人生において別れは突然に訪れるのだ。
印象深い同僚の“典型的なフィリピン人”女性
なぜ安月給からパチンコ代を捻出できるのか
小説家を夢見た結果、ライターになってしまった零細個人事業主。小説よりルポやエッセイが得意。年に数回誰かが壊滅的な不幸に見舞われる瞬間に遭遇し、自身も実家が全焼したり会社が倒産したりと災難多数。不幸を不幸のまま終わらせないために文章を書いています。X:@Nulls48807788
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