『ONE PIECE』による「熊本復興プロジェクト」は、2014年4月の震災から半年が過ぎて、次第にメディアに取り上げられることが少なくなってきた時期に、絶妙なタイミングで始まった。
このプロジェクトは、マンガをはじめとするポップカルチャーが、復興支援という社会的命題の解決のためにどのような効果を上げることができるかという壮大な社会実験でもある。そこでこの試みが成功するために何が必要なのかを考えてみたい。
① 最も重大な責任を持っているのは、プロジェクトに関わる各自治体の本気度である。プロジェクトがテレビや新聞で取り上げられた瞬間、問い合わせの電話が殺到して、担当部署が大混乱に陥った自治体もあった。『ONE PIECE』ファンのパワーを軽く見てはいけない。日本中からだけでなく、世界中からファンが押し寄せることも想定しておくことが必要だ。問い合わせに対する適確な対応、グッズの配布に伴う混乱の回避、外国人に対する細やかな対応など、各自治体には相当な覚悟を持って事にあたってもらいたい。
熊本城のある熊本市は別にして、普段はあまり目立たない益城町、上天草市、高森町、湯前町は、今回のプロジェクトで全国から注目される自治体となった。降って湧いたようなこのチャンスを最大限生かして次に繋げよう!という意気込みが必要だ。
② プロジェクトの参加者にも求められる責任がある。この企画には「被災地のために何かしたい」という社会的貢献願望と、「熊本でしか手に入らないグッズが欲しい」という限定物に対する欲求をうまく組み合わせて参加者をあおっている部分がある。それだけに一歩間違えると「熊本のために何かしてあげたかったのに、あまり感謝されなかった」「せっかく遠くまで来たのに、限定品が手に入れられなかった」といった不満を残してしまうことにもなりかねない。復興支援に対する対価は、本来ならば自分の満足感だけで十分であることを自覚しておくことが参加者に求められる。
③ このプロジェクトが社会実験であるならば、何よりも求められるのはデータの収得である。くまモンが地域経済にどのような経済的効果をもたらしてきたか、 いわば「くまモノミクス」の データはこれまで各方面から報告されてきた。
今回は『ONE PIECE』とのコラボによってさらにどのような相乗効果が生まれたのかを算出しておく必要がある。また集英社のCSRの効果、国、熊本県、各自治体ごとの効果もデータ化しておくことも必要となるだろう。
熊本県に「麦わらの一味」出没!? 『ONE PIECE』による「熊本復興プロジェクト」がスゴイ!
熊本を舞台にしたマンガの増加
熊本のマンガ愛が全国で一番と思い込んでいる私たちは、最近あちこちで「熊本県を日本一のマンガ県にするぞー」と叫びまくっている。「田舎もんが何かたわごとを言いよる」と思った他県人の諸君、「お前たちはまだ熊本の底力を知らない!」 もちろんこのセリフは、「お前はまだグンマを知らない」のパクリである。このマンガは地方ディス、つまりdisrespect の色合いが強いが、これからお届けするレポートはその反対で、地方リィス、つまりrespect 、熊本が今どれだけすごいことになっているかがテーマだ。ということで今回は「熊本のマンガ力」についての最新情報をお届けする。『月刊コミック@バンチ』(新潮社)のウェブコミック配信サイト『くらげバンチ』にて2013年10月より配信中の人気漫画『お前はまだグンマを知らない』(井田ヒロト作)
『週刊ヤングジャンプ』(集英社)にて連載のクライムサスペンス『魔風が吹く』(円城寺真己作)
KADOKAWAの『コミックキューン』で連載中の、車で坂道を攻める美人上司と行く熊本ドライブコメディ『今日どこさん行くと?』(鹿子木灯著)
大物揃い! 熊本出身のマンガ家たち
マンガに熊本が出てくるだけでなく、熊本出身のマンガ家が描いた作品が熊本の注目度を引き上げていることを忘れてはいけない。だが、ご当地出身の漫画家さんを威張るだけならどこでもできる。熊本が他と違うのは、キラーコンテンツを多く持っていることだ。 マンガにあまり詳しくない人でも『ONE PIECE』(ワンピース)は知っているだろう。国内だけでなく、海外でも大人気の同作は、世界で4億4000万冊も売れ、世界一発行部数の多いマンガとしてギネスに認定されている。 ご存じの方も多いと思うが、知らない人のために言うと、実は作者の尾田栄一郎氏は熊本市の出身なのだ。 他にも、『夏目友人帳』の緑川ゆき(熊本出身・在住)、『スラムダンク』『バガボンド』の井上雄彦(熊本大学中退)など、熊本にゆかりのある超大物マンガ家は多い。熊本地震からの復興支援に尽力する尾田栄一郎氏
熊本を日本一のマンガ県にするためのプロジェクトは、尾田栄一郎氏の熱い地元愛から始まった。尾田氏の貢献を振り返るために、時計の針を2年前に戻してみよう。 2016年10月24日、この日はマンガが復興支援にとっていかに大きな力になるのかを日本中が認識する日となった。その日に発売された『週刊少年ジャンプ』47号の表紙と巻頭カラーは『ONE PIECE』だった。『週刊少年ジャンプ』2016年47号の表紙
口絵に掲載された「熊本復興プロジェクト」の全体像
「熊本復興プロジェクト」のねらいとは?
「マンガの力で復興支援?」いまいちピンとこないかもしれないので、こんな風に説明したらこのコラムの読者の皆さんにもわかってもらえるだろうか? ◎ 『ONE PIECE』の単行本の国内での発行部数は、ギネス認定級の3億4000万部、国民一人当たり3冊買っていることになる。マンガ、アニメ、ゲーム、映画、果ては歌舞伎まで、それらを通してジジババから孫までの三世代が同時に楽しんでおり、国民への浸透度は計り知れないほど高い。 ◎ これまで『ONE PIECE』は全都道府県の観光キャンペーンに登場しており、地域との結びつきは元々高かった。これに加えて全国的に知名度の高いゆるキャラ「くまモン」とのコラボで、相当の相乗効果が期待できる。 ◎ 尾田栄一郎氏の地元愛はやっぱり半端じゃなかった。震災直後の4月17日、尾田氏から届いた「熊本のみんな、フンバれよー!必ず応援に行くぞ!」というメッセージを、私たちは今でもしっかりと覚えている。そのメッセージを本当に実現したのだ。それも漫画家個人の応援だけではなく、多くの人、出版社、自治体を巻き込んでの大イベントにまとめあげた。尾田氏のファンがこの熱い思いに応えないわけがない。恐るべし!海賊王の力! ◎ 『ONE PIECE』は発行元の集英社にとってはドル箱的存在で、イベントなどでの著作権使用については簡単には認めてこなかった。それが、今回は集英社が全面的に乗り出してプロジェクトを主導している。これは企業の社会的責任(CSR)のうちメセナかフィランソロピーの一環と考えられるが、集英社が本気でこの企画に取り組もうとしていることがビンビンと感じられる。 ◎ 県内の自治体の気合の入れ方も相当なものだ。くまモンと『ONE PIECE』とのコラボを積極的に進めたい熊本県、復興城主を一人でも多く集めたい熊本市、ふるさと納税制度を利用して復興費を捻出したい益城町、南阿蘇鉄道の全面復旧を一日も早く実現したい高森町、ラッピング電車を走らせて観光客を増やしたい湯前町の意気込みが伝わってくる。「熊本復興プロジェクト」を成功させるために
『ONE PIECE』による「熊本復興プロジェクト」は、2014年4月の震災から半年が過ぎて、次第にメディアに取り上げられることが少なくなってきた時期に、絶妙なタイミングで始まった。 このプロジェクトは、マンガをはじめとするポップカルチャーが、復興支援という社会的命題の解決のためにどのような効果を上げることができるかという壮大な社会実験でもある。そこでこの試みが成功するために何が必要なのかを考えてみたい。 ① 最も重大な責任を持っているのは、プロジェクトに関わる各自治体の本気度である。プロジェクトがテレビや新聞で取り上げられた瞬間、問い合わせの電話が殺到して、担当部署が大混乱に陥った自治体もあった。『ONE PIECE』ファンのパワーを軽く見てはいけない。日本中からだけでなく、世界中からファンが押し寄せることも想定しておくことが必要だ。問い合わせに対する適確な対応、グッズの配布に伴う混乱の回避、外国人に対する細やかな対応など、各自治体には相当な覚悟を持って事にあたってもらいたい。 熊本城のある熊本市は別にして、普段はあまり目立たない益城町、上天草市、高森町、湯前町は、今回のプロジェクトで全国から注目される自治体となった。降って湧いたようなこのチャンスを最大限生かして次に繋げよう!という意気込みが必要だ。 ② プロジェクトの参加者にも求められる責任がある。この企画には「被災地のために何かしたい」という社会的貢献願望と、「熊本でしか手に入らないグッズが欲しい」という限定物に対する欲求をうまく組み合わせて参加者をあおっている部分がある。それだけに一歩間違えると「熊本のために何かしてあげたかったのに、あまり感謝されなかった」「せっかく遠くまで来たのに、限定品が手に入れられなかった」といった不満を残してしまうことにもなりかねない。復興支援に対する対価は、本来ならば自分の満足感だけで十分であることを自覚しておくことが参加者に求められる。 ③ このプロジェクトが社会実験であるならば、何よりも求められるのはデータの収得である。くまモンが地域経済にどのような経済的効果をもたらしてきたか、 いわば「くまモノミクス」の データはこれまで各方面から報告されてきた。 今回は『ONE PIECE』とのコラボによってさらにどのような相乗効果が生まれたのかを算出しておく必要がある。また集英社のCSRの効果、国、熊本県、各自治体ごとの効果もデータ化しておくことも必要となるだろう。ルフィと「麦わらの一味」の像を熊本県内に設置
熊本地震がきっかけで復興支援のためにさまざまなな活動を続けてきた尾田さん、今度はルフィ像を熊本県庁のプロムナードに作ることに協力、しかもその費用は尾田さんから県への復興支援のために出された寄付金を充てるというのだから徹底している。 「県庁内にそんなに金をかけてルフィ像を作っていいのか」「誰が見にくるのか」などというのは、マンガを舐めてる者の言い草だ。ファンはどんな場所にも現れる。『夏目友人帳』のアニメに登場する人吉・球磨地方にある名もない神社だったところは、今では聖地巡礼スポットとして多くのファンが集まっていることからもわかるだろう。 ルフィ像が完成する11月末には多くの人が熊本に押し寄せるだろう。その経済的効果ははかりしれない。それだけではない。作品に登場する仲間たち、ゾロ、ナミ、ウソップ、サンジ、チョッパー、ロビン、フランキー、ブルックの8体の像を県内各地に設置する計画が進んでいる。これが実現すればすごいことになってしまうだろう。世界中から人が県内各地に集まり、それまで何をやっても全国で中位クラスの成果しかあげてこなかった熊本県は、マンガの力で一気に 観光、文化の先進県に生まれ変わるかもしれない。 だが今のところ、多くの自治体はその爆発的な潜在力を持つルフィの仲間像が設置されることの本当の価値に気づいてはいないようだ。県ではルフィの仲間像設置に興味のある自治体を募集したところ、44の自治体の中で手をあげたのは30。その価値に気づいていれば全自治体間で激しい争奪戦が繰り広げられるはずだ。被災地として優先的に取り扱われる立場にある西原村では、これからワンピースに詳しい職員を集めて協議するなどとのんきなことを言っている。熊本県内の被災地に『ONE PIECE』のキャラクター像を設置する計画を報じた新聞記事。県庁に建てる主人公ルフィ以外に、「麦わらの一味」と呼ばれる8体の登場人物像を設置することが明らかになった。
あなたのお探しの漫画、ここにあります!本巻の主なお取り扱い作品は「美術を志す少女が借りた、葛飾北斎が主人公の漫画」。「なんでもアリ?…超有名ネコ大活躍の人情ギャグ漫画」。「一人の男を虜にした、”コナン”より40年前の探偵漫画」。「異国・フランスの地で、見つけてしまった西部劇漫画」。「学生時代、彼に惚れた…超格好いい男子登場の少女漫画」。