「国家的危機」の乗り越え方 新型コロナ封じ込めに成功した台湾に学ぶ
<文/野嶋剛:ジャーナリスト、大東文化大学特任教授>
分断される世界で深まる対立
世界は分断され、対立は深まっている。新型コロナウイルス問題が起きる前から、誰もがそう感じていた。インターネットの出現によって、多くの人が情報と知識に自由にアクセスできるようになり、国境や立場を超えて人間が繋がるようになった。「開かれた世界」が到来すると信じていたが、実際に我々が体験しているのは、経済格差の拡大もあいまって、多くの人々が非難と不信に包まれる分断社会である。そして、新型コロナウイルスは、日本においてもさらに深い分断を作り出しているように感じられる。 感染症の蔓延や地震などの自然災害といった大きな災厄においては、人間社会は時に分断を深め、時に結束を強める。大規模災害は社会が利用できるリソースが減ることになるので、物理的に幸福になるわけではないが、人はすべてが経済原理で動いているわけでもなく、むしろ災厄によって人間社会の良い面が表出することもある。 ピンチをいかにチャンスに変えるか、暗いものを明るいものに変えていくかは、まさにそれぞれの社会の持っている力量が試される。この点において、台湾は成功した。 台湾にも社会の分断はある。むしろ日本を含めた世界の多くの国々よりも政治対立はずっと深かった。では、どうして新型コロナウイルス危機で団結の方向に向かうことができたのか。それは、政府のコロナ対策が総じて合理的で納得のいく公平なものであったことが大きい。誰一人としてこぼれ落ちないような気配りがなされていると感じさせる局面を、この半年のなかで何度も目撃した。 例えば、台湾で配給されるマスクにピンク色のものがあり、男の子が学校でいじめられないか不安がっている、という記者からの質問があると、翌日、陳時中はピンク色のマスクをつけて記者会見に現れた。「何色でもマスクはマスク。ピンクも悪くない」と述べ、男の子に助け舟を出した。もちろんそうした男の子が本当にいたかどうかはわからない。だが、「ピンク=女性」という不必要な偏見をたしなめる意味が込められていた。マスク実名制の枠に入らない外国人の留学生や労働者へのマスク配布も行われていた。そうした包容力が社会を暗くしないことにつながる。1
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『なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか』 ①“攻め"の水際対策 ②ためらいなく対中遮断 ③“神対応"連発の防疫共同体 “民主主義"でコロナを撃退した「台湾モデル」の全記録! |
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