「国家的危機」の乗り越え方 新型コロナ封じ込めに成功した台湾に学ぶ
国家的危機の結果を左右する12の要因
世界を見渡せば、新型コロナウイルス対策に成功した国として挙げられる中には、台湾だけではなくイスラエル、ニュージーランド、アイスランドなど、比較的規模の小さい国が目立つ。小さいゆえに危機に対する防衛意識が普段から高く、対処しやすい利点はある。大国の米国、中国、ロシア、フランス、イギリス、ブラジルなどが苦しんだのも事実だ。ただ、すべてを国の規模に帰すことも公平ではない。感染症対策においては、どの国にも、伝統と価値観、習慣、医療体制、そして政治と市民の距離などの問題が絡み、もとより絶対的な正解はない。 ただ、人類が過去に経験してきた感染症流行を含めた多くの災厄の経験から、ある程度の共通した処方箋は存在している。 名著『銃・病原菌・鉄』を書いたカリフォルニア大学のジャレド・ダイアモンド教授は、国家的危機の結果を左右する12の要因を、2019年に刊行した著書『危機と人類』の中で挙げている。これを台湾に当てはめてみたい。 ① 危機的状況への合意 ○ ② 責任の受容 ○ ③ 課題を定めるための枠組み作り ○ ④ 他国からの物的、財政的支援 × ⑤ 他国を問題解決のモデルとすること ○ ⑥ 国家的なアイデンティティ ○ ⑦ 公正な自己評価 ○ ⑧ 危機の歴史的経験 ○ ⑨ 失敗への対応 ○ ⑩ 状況に応じた柔軟性 ○ ⑪ 国家の基本的価値観 ○ ⑫ 地政学的制約からの自由 × ①については、台湾社会が一体となって新型コロナウイルスに取り組んだことは疑いようがない。②も防疫の責任を政府が受け止め、最大限の努力をしたことは確かだ。③についてもマスク確保の目標を立て、その自主生産スキームを短期間で作りあげて世界2位の生産国になったことは見事だった。④と⑫は、中国から圧力を受け、WHOにも参加できなかったので×である。 台湾はSARSの後、従来の体制を否定して米国の制度を徹底的に研究して改革を行っており、⑤、⑦、⑧は満たしている。⑨、⑩についても、欧州からの第二波の時に警戒態勢を強化し、マスクの使用推奨の方法を途中で変更するなど、適切に対処することで感染拡大を抑え込んだ。「防疫共同体」として、台湾の未来を守ろうと努力した点も⑥や⑪の部分で合格点となるだろう。 この条件を日本に当てはめてみるとどうなるかは読者の判断にお任せしたい。 【野嶋剛(のじまつよし)】 ジャーナリスト、大東文化大学社会学部特任教授。元朝日新聞台北支局長。1968年生まれ。上智大学新聞学科卒。政治部、台北支局長、国際編集部次長、AERA編集部などを経て2016年4月に独立し、中国、台湾、香港、東南アジアの問題を中心に、活発な執筆活動を行っている。『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『銀輪の巨人 ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『台湾とは何か』(ちくま新書)=第11回樫山純三賞(一般書部門)、『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)等著書多数。最新刊は『なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)1
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『なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか』 ①“攻め"の水際対策 ②ためらいなく対中遮断 ③“神対応"連発の防疫共同体 “民主主義"でコロナを撃退した「台湾モデル」の全記録! |
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