それでもモヤシはいやねぇ――連続投資小説「おかねのかみさま」

みなさまこんにゃちは大川です。

『おかねのかみさま』37回めです。

今回はラスベガスで書いてます。
あした小さめのポーカートーナメントに出てきます。

※⇒前回「飲め」


〈登場人物紹介〉
健太(健) 平凡な大学生。神様に師事しながら世界の仕組みを学んでいる
神様(神) お金の世界の法則と矛盾に精通。B級グルメへの造詣も深い
死神(死) 浮き沈みの激しくなった人間のそばに現れる。謙虚かつ無邪気
美琴(美) 普通の幸せに憧れるAラン女子大生。死神の出現に不安を募らせる
村田(村) 健太が師と崇めるノウサギ経済大学の先輩。元出版社勤務
ママ(マ) 蒲田のスナック「座礁」のママ。直球な物言いが信条
学長(学) 名前の由来は「学長になってもおかしくない歳のオッサン」の略

〈第37回 お前みたいの〉
――蒲田 スナック座礁
「こんばんわ…」

「あらぁ!健太くん!どうしたの?ひとり?」

「あ、はい。いいですか?1,200円しかないんですけど…」

「いいわよぉ♡鏡月のボトルでちょっとあいてるのがあるからそれ飲んじゃって」

「え、でも、誰かのボトルじゃないんですか?」

「だいじょぶ♡いろいろあってもう来ない人だから」

「よかったな。お前はツイてる」
「あ、ありがとうございます…」

「どうしたんだお前、まだバイトの時間じゃねぇのか?」

「師匠…ぼく…つかれました」

「そうか。飲め」

「はい…」

「どうしたのー?なんかイヤなことでもあったの?」

「なにもないんです」

「ならいいじゃない」

「いや…ぼくの人生…なにもないんです…」
「そうか、飲め」

「はい…」

「なにもないのもいいもののよー。私なんか磁石のように変なひとが集まってくる人生しか送ったことないから、なにもない人生に心から憧れるわー」

「そうでしょうか…」

「飲め」
「はひ」

「そんなもんよ。だって、みんな将来の心配をするからその心配事が起こらないようにがんばって仕事したり準備するんでしょ。だったらなにもないことはみんなにとっての理想ってことじゃない。ちがう?」

「いいこというじゃねぇか」

「そうなんです。それはわかるんです。でも僕ふと気づいてしまったんです」

「何に?」

「その考え方でいうと…結局一生心配しながら仕事し続けることになるんじゃないかって…」

「なるほどな。いいこと いうじゃねぇか。飲め」
「はひぃ」

「で、そんな日常に何かアクセントが欲しくてこの店に来たってことね」

「いや、えと、そうなんですけどそうじゃなくて」

「なんだよ」

「ぼく…こないだ学長さんが言っていたことを勉強させていただいて…起業とかしてみたいなーって思いまして…」

マ村「キギョウぉ!???」

「はい…」

「起業って、その、ちょっと言いにくいんだけど、ケンタくんみたいな感じの人じゃなくて、もっとガシガシした肉食の人がやることなんじゃないの?」

「やっぱりそうでしょうか…」

「いや、最近はそればっかりじゃない。コイツみたいな一見なにもできなさそうなモヤシ野郎でも、アイデアひとつでのし上がれるのが起業のトレンドだ」

「モ…」

「えー、でもモヤシじゃやっぱりなんか頼りないわよ。だって大きくなるにつれて社員さんだって増えて行くんでしょ。そしたら朝礼とかやるんでしょ。あたしだったらモヤシに朝礼されたら死にたくなっちゃうわ」

「死にたく…」

「いや、最近のベンチャー企業ってのは朝礼なんかしないんだ。なんなら代表者のキャラクターだって必要ない。必要なのはゴールの設定と、そこに至ることのできる能力があるかどうか。それだけだ」

「ゴール?」

「そう。ゴール。昔はゴールを設定しても自分から動かない奴ばっかりだったから、横に立ったり、気合を入れさせたり、誰かが集団を監督する必要があったんだ。だけど最近は4,5人の優秀な人間とパソコンでなんでもできちまうんだから、ゴールが設定してあるにも関わらずその方向に向かって貢献できない奴はただ単に能力がないってだけの奴なんだよ」

「うーーーん。それでもモヤシはいやねぇ。もうこれは理由なんかないの」

「モヤシでもいいじゃねぇか。こんなモヤシでも束になったら相当なもんだぞ」

「そりゃあね!アタシだってモヤシが栄養価高いことだって知ってるし、タマゴとか、レバニラとか、ゴマの香るすてきな味噌ラーメンとか、欠かせないケースがたくさんあるのはわかるわ。だけどね、それは野菜としてのモヤシであって、じゃあモヤシに人生かけられるかって言ったら無理よ。どうせ人生賭けるならアタシはお肉に賭けるわよ」

「むぅ…それもそうだな…」

「でしょー」

「あのー…」

「なんだ?」

「あのですね。ずっと僕がモヤシって設定でお話が進んでらっしゃるところたいへん心苦しいのですが、ちょっとお話を聞いていただけますでしょうか」

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