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10年前に180万円の高級腕時計を盗まれた私は何を思ったか【コラムニスト原田まりる】

あっけなく消えてしまった腕時計の行方

 そんなある日、私は引っ越すことになった。荷物を段ボールにしまい、引っ越し準備をしていたのだが、その時、時計が無くなっていることに気がついた。冷静に考えて、無くなっているわけがない、そう思って家の中をくまなく探したのだが、やはり無い。結局家具を全て引き上げても時計は見つからなかった。考えたくないが当時は、知人を大勢招いて鍋パーティーを開いたりしていたので、何者かに盗られた可能性も十分にありえる。  しかし、その時はあまりショックを受けなかった。「また買ってもらえばいいや」と思ったわけではなく、「まあ、私には不相応だったな」と合理化を図るとこでショックを沈めていたからだ。  これは童話の“すっぱいブドウ”的心理で、手の届きそうにないブドウを見て「あのブドウは酸っぱそうだから食べなくてよかった」と無理やり理屈をつけて合理化を図るあれである。今思うと、これは気持ち悪い自己欺瞞である。  Miitomoからの「無くしたモノはなんですか?」という質問に真っ先に思い浮かんだのはあの高級腕時計だし、いま手元にまだあったらな、と思うくせに自分を誤魔化して「あれはあれでいい教訓を得られた」と無理やり美談化するのは自己欺瞞以外のなにものでもない。教訓として生かせるとしたら、無くした時計を惜しんで、ありがたみも得られるように、今度は自分で買えるように、と仕事を頑張ることぐらい。覆水盆に返らずだが、水がこぼれたことを美談に仕立て上げる必要はない。  今回はMiitomoがきっかけとなって、時計を無くしたことを思い出したが、思いもよらない質問が飛んでくるMiitomoは自己欺瞞を無くすのに有用なツールに思えた。まあそういう啓発的なゲームではないですが、楽しみ方のひとつとして。 10年前に180万円の高級腕時計を盗まれた私は何を思ったか【コラムニスト原田まりる】【プロフィール】 85年生まれ。京都市出身。コラムニスト。哲学ナビゲーター。高校時代より哲学書からさまざまな学びを得てきた。著書は、『私の体を鞭打つ言葉』(サンマーク出版)。レースクイーン、男装ユニット「風男塾」のメンバーを経て執筆業に至る。哲学、漫画、性格類型論(エニアグラム)についての執筆・講演を行う。Twitterは@HaraDA_MariRU 原田まりる オフィシャルサイト https://haradamariru.amebaownd.com/
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