更新日:2022年07月04日 11:38
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10年前に180万円の高級腕時計を盗まれた私は何を思ったか【コラムニスト原田まりる】

 任天堂から出たスマホゲームの「Miitomo」を先日始めてみた。Miitomoは自分のそっくりさんのMiiが投げかける「好きな食べ物はなんですか?」など質問に対して答え、自分にまつわるデータを覚えさせるというシステムのゲームだが、先日Miiから投げられたある質問に、私はショックな出来事を思い出した。その質問は「今まで失ったモノの内、また見つけたいモノはなんですか?」というもの。私はその一言に、180万の腕時計を無くしてしまったことを思い出した。
10年前に180万円の高級腕時計を盗まれた私は何を思ったか【コラムニスト原田まりる】

自分とそっくりに作ったMiiはこんな風に日々、さまざまな質問をしてくる

20歳の小娘が恋人にねだって買ってもらった高級腕時計

 180万円もの高額な品を失くしたわけだが、そもそもなんでそんな大金を手元に持っていたのか?という疑問を持たれると思うので、順を追って説明するとこうである。  ことの発端は20歳過ぎのころ。当時付き合っていた彼氏がものすごく羽振りがよく、クリスマスプレゼントにと腕時計を買ってくれることになったのだ(不倫ではないよ)。  私は、物の価値が全くわからない小娘だったので「どこの腕時計がいい?」と聞かれ、デザインが変わっていてお洒落だなというだけで「フランクミュラーの腕時計がいい」と言った。いくら羽振りがいい男とはいえ、20歳そこそこの女にフランクミュラーの時計がほしい、とねだられるのは気分がいいものではないだろう。しかし、当時は若さゆえの無敵感、傍若無人をフル発揮していたので、一度フランクミュラーがいいと思えばもうそれ以外考えられない! という状態に陥っていた。他の人が持っていないようなものが欲しいという、安直な考えである。  クリスマスの日に銀座にあるフランクミュラー直営店に出向き、私は好きな時計を選べることになった。ドアマンに扉を開けてもらった先には高い天井が広がり、壁に埋め込まれたガラスケースには見目麗しい文字盤に、独特のフォントの数字が並んだフランクミュラーの時計が飾られていた。  0がいくつも並ぶ金額、フレームや文字盤にギラギラと散りばめられたダイアモンドを見るうちに私の感覚は麻痺していった。シンプルなデザインでは物足りないような気がしてきて、フレームにダイアモンドが散りばめられた、自分には不釣り合いすぎる時計が欲しくなったのだ。金額を見てさすがに彼も「はあ」と呆れていたが、最終的にその時計と、彼の母親へのプレゼント用にもう一本購入して店を出た。  私は嬉しくて、その日から肌身離さず腕時計をつけて生活していた。しかし、私は物の価値がわかっていない。自分で稼いだお金でもなんでもなく、所詮は棚ぼたで手に入れた時計である。買ってくれた恋人には悪いが、本質的には時計に「ありがたみ」を感じていなかったのだ。しばらくすると時計をすることに飽きて、机の上に置きっ放しにしていた。悪い意味で執着心を持てずに、乱雑に家の中に置きっぱなしにした。
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あっけなく消えてしまった腕時計の行方
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私の体を鞭打つ言葉

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