メディアを敵にまわしたビンスの誤算――フミ斎藤のプロレス講座別冊 WWEヒストリー第106回
スローターのキャラクターは――80年代モデルのアメリカ海兵隊のスローター軍曹ではなくて――イラクのサダム・フセイン大統領の親友という設定だった。現実の世界では、前年8月にイラクがクウェートに侵攻したのを機に国連がイラクへの多国籍軍の派遣を決定。1991年1月17日、アメリカ軍がイラクへの空爆を開始して“第一次湾岸戦争”が開戦した。
ホンモノの戦争がはじまってしまったのが“ロイヤルランブル”のほんの2日まえだったのは、もちろんビンスのせいではない。
WWEにとって、それはひとつのギャンブルだったのだろう。“湾岸戦争”をモチーフにしたウォリアー対“イラク軍”スローターのタイトルマッチは予定どおりおこなわれ、ランディ・サベージの乱入―凶器攻撃でウォリアーがフォール負けを喫し、スローターが新チャンピオンとなった。
同夜のメインイベントにラインナップされた30選手出場・時間差式変則バトル“ロイヤルランブル”は、ホーガンが優勝をさらった。3月の“レッスルマニア7”のメインイベントがスローター対ホーガンのタイトルマッチになることはだれの目にも明らかだった。
現実の戦争をプロレスの連続ドラマのストーリーに利用したことで、WWEはメディアの大バッシングを受けた。“レッスルマニア7”の前売りチケットの売れゆきは1万枚レベルに低迷し、WWEは1月第3週の時点でその開催場所を急きょロサンゼルス・コロシアムからロサンゼルス・スポーツ・アリーナに変更した。
“湾岸戦争”をめぐる議論は、それから数カ月後にビンスがおそらく初めて体感する四面楚歌のシナリオのほんのプロローグでしかなかった。(つづく)
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文/斎藤文彦 イラスト/おはつ
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