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ダラダラとかっこ悪く生きていくことのススメ

かっこよく去った後に、残された人間は?

 んで、そうこうしているうちに、つうとよひょうに子供が生まれるわけですね。  子供は、「うちの母ちゃん、昔、鶴だったらしいぜ」と知って、苦悩していいのか驚いていいのか分からないまま、生活を続けるのです。やがて、子供は二人になって、「ねえ、私達もそのうち、鶴になるのかな? そしたら、空を飛べるかな?」なんてワクワクしながら話し合うのです。 「まあ、俺達は、最終的には鶴になって自分の羽根で反物を織ればいいんだから、最低保証はあるよな」  兄が妹か弟にそんなことを言うかもしれません。  ここらへん、物語の展開に気をつけないと、映画『おおかみこどもの雨と雪』とかぶりそうになります。  『こうかみしょうじの飴と湯気』なんて言われないようにしないといけません。  きたやまさんが、「ダラダラと生き続けること」を主張するのは、2009年に62歳で自死した加藤和彦さんのことを思うからでしょう。  加藤さんの去り際は、それは見事なものでした。自分の荷物をすべて整理し、スタジオもきれいに片づけ、ただ、壁に一枚、アマチュア時代の『ザ・フォーク・クルセダーズ』のライブ風景を写した白黒写真を残しただけでした。  遺書の書き出しは、「今日は晴れて良い日だ。こんな日に消えられるなんて素敵ではないか」で、末文は、「現場の方々にお詫びを申し上げます。面倒くさいことを、すいません。ありがとう」でした。  あまりにも見事でスマートで手際がいいからこそ、きたやまさんは、「ちょっと待て」と思ったのだと思います。  お前はそれでいいけれど、残された人間はどうなる。かっこよくさっと去っていくお前はいい。けれど、残される人間の気持ちはどうなる。  だから、きれいに去るなんて思わずに、ダラダラとかっこ悪く生きていこうと言うのです。 ドン・キホーテのピアス 中年の孤独死が問題になっています。多くの人はかっこ悪くなりたくないから、ミジメな自分を見せたくないから、外部との接触を絶ったんじゃないかと僕は思っています。  でも、かっこ悪く、恥をかきながら世界とつながるのもいいもんだと僕は思うのです。
ドン・キホーテ 笑う! (ドン・キホーテのピアス19)

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