ダラダラとかっこ悪く生きていくことのススメ
― 週刊SPA!連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史> ―
BS朝日で『熱中世代』という番組の司会を進藤晶子さんと一緒にしています。オンエアは、日曜朝8時なんですが、精神科医で作詞家の「きたやまおさむ」さんが何回もゲストで来てくれています。
きたやまさんは、「かっこよく去る」ということに一貫して反対しています。かっこ悪く、ダラダラと、粘りながら居続けてもいいんじゃないかと言うのです。
例えばと言って「鶴の恩返し」の話を持ち出します。
あの時、鶴は自分の正体を見られたから、去っていく。それはかっこいいんだけど、人生はそんなもんじゃないんじゃないか。そんな風に去れたら素敵かもしんないけど、人生、そうはいかないと思うと言うのです。
じゃあ、どうすればいいんですか?と問いかけると、「だから、居座るんです」と、楽しそうに答えられました。
鶴は去っていかない。見られて正体がバレても居座る。ただ、ダラダラと居る。そういう関係は面白いときたやまさんは言います。
そう聞いて、いきなり物語のイメージが膨らみました。
夫の「よひょう」は、女房の「つう」の正体を知った後も、なんとなく一緒の生活を続けます。で、酔っぱらうと「お前は人間なの? それとも鶴なの?」なんて聞くのです。
つうのほうも「両方だし、両方でもないし、私も分かんないのよ」なんて困りながら答えるのです。
んで、また、自分の羽根で反物を織り始める姿を見て、よひょうは、「やせ細ったお前は、美しいのか? 醜いのか?」と混乱するのです。
つうは、そう聞くと「やせてガリガリだけどお金はある私と、見事に美しいけれどお金がない私。どっちを選ぶ?」なんていう究極の選択を迫るのです。
おお、これはまるで、「スタイル抜群で美人のモデルなんだけど性格は最悪でバカか、性格は最高でものすごく賢いんだけどデブでおブス。どっちを選ぶ?」という究極の選択の古典そのものではないですか。
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