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快速、快適、高画質――30年間変わらないキヤノンEOSの設計思想

社運を賭けた、一大プロジェクト「EOS」

 AF一眼レフの開発計画名は「EOS」。当初は完全有機体システムの略(Entirely Organic System)だったが、のちに電気光学システム(Electro Optical System)に変更され、2年の研究・開発期間をへて1987年に実を結ぶ。EOSシステムの初号機「EOS 650」の登場である。 ⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1355654
EOS 650

1987年に生まれたEOSシステムの初号機「EOS 650」。最新技術を積極的に導入することで、比類ないAFの実現に成功した。同年の日本カメラグランプリや、ヨーロピアンカメラ’87/’88などを受賞

 この機種は、自社開発の高感度距離センサーBASIS(Base Stored Image Sensor)や、当時最新の超音波モーターUSM(Ultra sonic)高度な演算と制御を可能にするスーパーマイコンを搭載。完全電子制御による高速かつ高精度で、音の静かなAFを実現した。 EOS 650「快速、快適、高画質というのが、今も変わらないEOSシステムの開発コンセプトです。当時から30年後を見据えていたかどうかは分かりませんが、最後発になっても完全電子化を採用したことで、21世紀のデジタル化の波を乗り越えられたと思います」(笠松氏)  同年には上位機種が発売され、1989年にはフラグシップモデルの「EOS-1」が登場した。「弊社には、『F-1』(1971年)や『New F-1』(1981年)といったフラグシップモデルがありました。それらを愛用していた方たちからは、EOSでも早くプロ機を出してほしいという声が、多く寄せられていました」(家塚氏)
EOS-1

1989年生まれの「EOS-1」に、専用のパワードライブブースターE1を装着したモデル。動体予測・AIサーボAFの機能が向上すると同時に、巻き上げコマ速も高速化し、給送本数の能力も増大している

 EOS-1のハイクオリティなAF機能はプロのカメラマンたちにも認められ、AF一眼レフは、広く市民権を獲得する。 「プロの方に特に人気だったのが、本体の後ろに取り付けられたサブ電子ダイヤルです。これを操作することで、露出を素早く調整できます。非常に使いやすいと好評で、最新の一眼レフにも受け継がれています」(同) EOS-1 それまでのメカ的な道具に替わり、電子的なものが、新しくてかっこいいといわれた80年代。一眼レフにも、液晶やボタン操作を取り入れた機種が登場した。 「確かに、ボタン式のものはデザイン的に優れていると思います。ただ、人間工学の観点からすると、操作性はボタンよりもダイヤルのほうがいい。最新の機能やデザインを取り入れるときは、使う人が快適かどうかを第一に考えて開発しています」(笠松氏)
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30年前から変わらぬ完成度の高いシステム
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