カンボジアのスラム在住、便器の上で魚をおろす暗黒の包丁人~日本を棄てた日本人~
「???」
声をかける隙もなく、もの凄い勢いで便座の上にまな板を固定。呆気にとられる本因坊が見守るなか、まな板に魚をのせると、iPadほどもある中華包丁で思い切りよく、ガツン、ガツンと謎の魚をバラしてゆく。
⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1359054
「トイレでやるのが一番合理的なんや。 魚のいらんところとか、そのまま便器に流せるやろ?」
なまくらな中華包丁は切れ味が悪く、便座の上に置かれたまな板は何か一動作するたび激しくスライド。それを見守る本因坊の心臓も激しくスライドする。
Sは黙々と鱗をとり、皮を剥ぎ、身を三枚におろした。工程の合間合間に、便器の横にあるバケツの水を魚にぶっかける。洗っているのか汚しているのかわけがわからないが、たぶん洗っているのだろう。
ここまで荒々しく何もかも見せられた日には、どこから突っ込んでいいかもわからず、もはやあきらめるしか無い。
それでも……。目の前に盛り付けられた白身の刺身を眺めていると、DNAレベルでふつふつと食欲が湧いてしまう。これ、日本人の悲しい性なのかな。
「食べてええよ」
便器でドスドスぶった切り、便所のバケツで洗った謎の刺身……。正面でニコニコ、反応を窺うSを失望させるわけにはいかなかった本因坊。えい、ままよ!と、(毒消しに)たっぷりワサビを塗った切り身を次々と口に放り込み、完食したのだった。
緊張のあまり、味わうより飲み込むほうに一生懸命だったそうだが、とりあえず刺身的な味はしたという。
食べ終わった直後にSの発した「ギリギリやったわ」という言葉に目まいを覚えた本因坊。幸いお腹は無事だったそうだが、アジアに住んで十数年。皆さんの胃腸とは基本スペックが違うので、参考にはしないでほしい。
カンボジアには、私たちの常識を覆すような、日本を棄てた日本人がまだまだいる。
【クーロン黒沢】
東京生まれ。90年代からアジア(香港・タイ・カンボジアなど)、洋ゲー、電話、サバイバル、エネマグラ等、ノンジャンルで執筆。強盗・空き巣被害それぞれ一回、火事・交通事故(轢き逃げされた)各一回、その他、様々なトラブルを経験した危機管理のプロ。現在は人生再インストールマガジン『シックスサマナ』発行人。同名のポッドキャストも放送中。
<取材・撮影・文/クーロン黒沢>
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