WWEスーパースターズは東京から名古屋へ――フミ斎藤のプロレス読本#063【WWEマニア・ツアー編エピソード3】
バックランドの暮らしはノルマだらけで、いまでも1日3時間のトレーニングは欠かしたことがないし、食事には神経質なくらい気をつかっていて、レッド・ミートと脂肪分の高いものはいっさい口にしない。
肉類ならばチキンかツナ。牛乳は大好きだけど、飲むのはローファットかスキムミルクだけ。ビタミンもプロテインもカルシウムも大切だけれど、サプリメントのたぐいは飲まない。
ナチュラルな野菜をたくさん摂って、よく眠ること。外食――ツアーに出るとこれがいちばんむずかしい――はなるべくしないこと。ハイスクールに通っている16歳の長女キャリーさんのジムナスティックス(器械体操)、水泳、テニスの試合があるときは、仕事を休んでも必ず観にいくこと。
バックランドは“オール・アメリカン・ファーザー”のお手本。こういう人がひとりいるだけで、ドレッシングルームのムードが決まりいいものになる。
名古屋での宿泊先にチェックインすると、試合会場への移動バスが出発する午後3時45分まで自由時間になった。ショーン・ウォルトマン――この時代のリングネームは1-2-3キッド――は、ロビーをうろうろしていたボーイズやレフェリーをつかまえては「ジャパニーズ・ランチはラーメン・ヌードルに限る」とアドバイスして歩いた。
ホテルから2ブロックくらい歩いたところにみつけたラーメン屋に入ると、もう何人かのレスラーたちがカウンター席に陣どっていた。
いちばん奥の席に座っていたバンバン・ビガロは、みそラーメンと餃子とライスを食べていた。ビガロは――日本語は読めないけれど――ラーメン屋のメニューならなんでも知っているという顔をしていた。
タタンカ、ファトゥー、ビリー・ガン&バート・ガンのスモーキン・ガンズは、ショーンに教わったとおりチャーシューメンをオーダーした。
あとから店に入ってきたブレット・ハートとアンダーテイカーは、テーブルについてから、なにを食べようかさんざん迷った。
スープのバリエーションは“しょうゆ味”“みそ味”“塩味”の3種類だと教えてあげると、ブレットは「ソイ・ソース(しょうゆ)はパスだな。ソルト(塩)もやめとこう。ミソがいい、かな」といいかけてから、ほかのみんながおいしそうに食べているチャーシューを指さして「あれはビーフなの、ポークなの?」とさらなるチェックを入れた。
「ポークです」とぼくが答えると、ブレットは「ポークか、ポークはあまり食べたくないな……」とまた悩み、しばらく考えてから、みそ野菜ラーメンを注文した。よこにいたアンダーテイカーもブレットと同じものを頼んだ。
カウンター席を占領したボーイズが、だれからともなく世間話のような調子でビジネスのはなしをはじめた。
「なあ、きょうもハウス(お客さんの入り)はよくないのかなあ」
「よくないだろ」
「どうしてだと思う?」
「ノーTV、ノー・パブリシティーだもん」
「ジャパンに行けば、どのタウンもかんたんにソールドアウトだ、なんていったのはどこのどいつだ?」
このツアーの主役であるWWE世界ヘビー級王者ブレットは、大きなアリーナをいっぱいにできず、このマニア・ツアーが失敗に終わったとしたら、それは自分の責任なのではないかと感じはじめていた。(つづく)
※文中敬称略
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文/斎藤文彦 イラスト/おはつ1
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