エンタメ

今や世界が熱狂する「ジャパニーズ・メタル」 長らく押し込められた暗黒の時代を振り返る

メタルの世界にもある“男尊女卑”

 さらにヘヴィメタルは、元々マッチョでマッスルな男臭い男性社会である。かつてヘヴィメタルの女性ミュージシャンは、女性であるというだけで問答無用で劣るものとされてきた。  パワフルで攻撃的な音楽ジャンルだから、力が劣るとされる女性が下に見られることは仕方がないとは思う。だが、女性ミュージシャンにとっては、不条理だろう。女性よりも弱々しい男性もいれば、男性よりもパワフルな女性は多いのだから。  筆者は、ヘヴィメタル界に内在する“男尊女卑”の考え方に対しては真っ向から対立する立場だ。そもそも筆者のヘヴィメタルの入り口は、浜田麻里だったし、以降、SHOW-YAやTerra Rosaなど、ガールズメタル、女性ヴォーカル・メタルを掘り下げてきた経緯もある。女性でもパワフルなヘヴィメタルを演れるし、2000年以降は、スウェーデン出身のメロディックデスメタル・バンドARCH ENEMYに代表されるように、デスメタルにさえも女性ヴォーカリストが続々と現れている。  実は日本では、2010年以降、こういった“嬢メタル”が台頭し、多くのバンドが活躍しているのである。“嬢メタル”については、別の機会に詳しく述べたい。

メロスピ、クサメロ差別

 もうひとつ、ヘヴィメタルには、メロディに対する批判的な見方が存在する。かつての歌謡曲やアニソンのような強すぎるメロディは、「臭い」「クサメロ」とされ、嫌悪されるのである。それらはメロディック・スピード・メタル(メロスピ)と呼ばれており、そのファンである“メロスパー”は、メタル・カーストの最下層に位置づけられている。ぶっちゃけバカにされているのである。そしてメロスパー側も、自分らを自虐している。アニオタが持っている自虐意識と同じと考えてもらうと分かりやすいだろう。  80年代後期にドイツのヘヴィメタルバンド、HELLOWEENのアルバム『Keeper of the Seven Keys Part I』(1987年)が登場するまで、ヘヴィメタル・シーンには、歌謡曲やアニソンに匹敵するほどのメロディアスな楽曲やバンドは蔑視されていたのだ。 ⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1388272
HELLOWEEN『Keeper of the Seven Keys Part I』

HELLOWEEN『Keeper of the Seven Keys Part I』

 続編の『Keeper of the Seven Keys Part II』(1988年)は、日本のヘヴィメタル雑誌『BURRN!』(シンコーミュージック)のレビューにて、「例によって1歩間違えればアニメ主題歌にでもなりそうなサビメロも顔を出す(増田)」(1988年10月号)と評されたが、洋楽メタルのHELLOWEENですら、強い(臭い)メロディは否定的に捉えられる風潮があった。

ジャパメタの底流に流れる歌謡曲・アニソンのメロディ

 日本のヘヴィメタルバンドの重鎮、ANTHEMのリーダーである柴田直人は、日本のギター専門誌『YOUNG GUITAR』(シンコーミュージック)にて、「ぼくら日本人だし、演歌のメロディみたいなものは身体のどこかにしみ付いてるんで、普通にメロディアスな曲なんか作ると、どうしても本来のロックの土台――リズム、ノリ、ある部分でのルーズさ、パーフェクトさ――そういったものがない上に、メロディだけが乗ってしまう。はっきり言えばロックなのか、歌謡曲なのかわからない曲ができてしまう」と述べている(1985年9月号)。  HELLOWEEN以前、インディーズ時代のX(X JAPAN)にはすでに「紅」「X」などのクサメロが炸裂する楽曲があったが、こちらも「“スピード歌謡”みたいな」と、批判的に捉えられ、肯定的な評価はされていなかった。そういう状況もあって、XのYOSHIKIは「紅」をボツにしていたほどである。  後に大成功を収めたXの音楽性ですら否定されていたほど、ヘヴィメタルには、歌謡曲的、アニソン的なメロディは認められていなかったのだ(当時のXは、演奏が上手くなかったことや、またハードコアに近いところにいたことも、その一因としてあったとも思われるが)。  だが、HELLOWEENの商業的成功により、臭いメロディが受け入れられ、高い評価を受けるようになると、特にドイツから同系統の音楽性を持つ後続部隊が続々と登場し、“ジャーマンメタル”ムーブメントが勃発、その後ヨーロッパを中心に大きな盛り上がりをみせて、メロスピは一大勢力となっていった。特にX JAPANの母国である日本のメロスパーは、それを歓迎した(と同時に、硬派なメタラーは冷めた目で見ていた)。

あれから、30年……

 筆者が30年前から好きで追い続けてきた国産女性ヴォーカル歌謡メタルは、ヘヴィメタルということで、一般人から偏見の目で見られてきた。国産メタルは洋楽メタラーから一段低いものとされ、女性ミュージシャンは男尊女卑の考え方により男性より劣るものとみなされ、歌謡曲やアニソンのようなメロディの強い音楽性は批判的に見られていた。筆者の好みは、一般人から偏見の目で見られ、メタル・カーストでは最下層に位置づけられ、とことんまでバカにされていたのだ。  だがしかし! 2010年からの嬢メタルの盛り上がりとBABYMETALの世界的成功、そしてラウド系アイドルの勃興により、これまで虐げられ続けてきた国産女性ヴォーカル歌謡メタルは、大きく花開いた。いやはや、ビックリである。  とりあえず今言えることは、「30年間追いかけ続けてきて良かった!」
(やまの・しゃりん)漫画家・ジャパメタ評論家。1971年生まれ。『マンガ嫌韓流』(晋遊舎)シリーズが累計100万部突破。ヘビメタマニアとしても有名。最新刊は『ジャパメタの逆襲』(扶桑社新書)
1
2
ジャパメタの逆襲

LOUDNESS、X JAPAN、BABYMETAL、アニメソング……今や世界が熱狂するジャパニーズメタル! !  だが、実はジャパニーズメタルは、長らく洋楽よりも「劣る」ものと見られていた。 本書は、メディアでは語られてこなかった暗黒の時代を振り返る、初のジャパメタ文化論である。★ジャパメタのレジェンド=影山ヒロノブ氏(アニソンシンガー)の特別インタビューを掲載!

おすすめ記事