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ロシア革命から100年。共産主義の犠牲者は1億人を超えようとしている――評論家・江崎道朗

トランプ大統領はなぜ拉致被害者家族と会ったのか

 1989年、東西冷戦のシンボルともいうべきドイツのベルリンの壁が崩壊し、東欧諸国は次々と自由主義国へと変わった。ソ連も1991年に崩壊し、「共産主義」体制を放棄し、ロシアとなった。  このソ連の崩壊に呼応するかのように、世界各国が第二次世界大戦当時の、いわゆる外交、特に秘密活動に関する「機密文書」を情報公開するようになった。  ロシアは、旧ソ連・コミンテルンによる対外「秘密」工作に関する機密文書を公開し、ソ連・コミンテルンが世界各国に「工作員」を送り込み、それぞれの国のマスコミや対外政策に大きな影響を与えていたことを認めた。  アメリカも1995年、戦前から戦中にかけて在米のソ連のスパイとソ連本国との秘密通信を傍受し、それを解読した「ヴェノナ文書」を公開した。その結果、戦前、日本を経済的に追い詰めたアメリカのルーズベルト民主党政権内部に、ソ連の工作員たちが多数潜り込み、アメリカの対外政策に大きな影響を与えていたことが分かった。  その結果、「あの戦争」に対する評価が大きく変わってきている。第二次世界大戦前、アメリカの世論を反日親中に誘導した在米のロビー団体、国民運動団体の多くがソ連の工作員たちによって操られていたことも、日本に対し経済制裁を主張し、対米開戦のきっかけとなった「ハル・ノート」の原案を作成したのも、ソ連に北方領土などを明け渡すことを決定した「ヤルタ会談」もみな、ルーズベルト民主党政権内部にいた、ソ連の工作員たちが関与していたことが明らかになったのだ。  このため、アメリカの反共保守派の間では、コミンテルンの「秘密工作」を前提に、ルーズベルト民主党政権と旧ソ連の戦争責任を追及する声が高まってきている。  その近現代史見直しの動きは、現在のアメリカの対外政策にも大きな影響を与えている。東西冷戦はヨーロッパでは終わったが、アジアではまだ続いているからだ。  例えば、昨年9月に死去した、アメリカの草の根保守リーダーであり、世界的に著名な評論家・作家のフィリス・シュラフリー女史は以前、私のインタビューにこう答えた。 「なぜわれわれは、中国共産党政府の軍事台頭に苦しまなければならないのか、なぜわれわれは北朝鮮の核に苦しまなければいけないのか。こうした共産主義国家がアジアに誕生したのも、もとはと言えば民主党のルーズベルト大統領がヤルタ会談でスターリンと秘密協定を結んだことに端を発している。よってルーズベルトの責任を追及することが、アメリカの対アジア外交を立て直す上で必要なのだ」  こうした見解を持つシェラフリー女史ら反共保守派から絶大な支援を受けて当選したのがドナルド・トランプ現大統領なのだ。  訪日したトランプ大統領が「共産主義」国家の北朝鮮によって拉致された被害者の家族と会ったのは、日本側の懸命な外交努力があったからだが、トランプ自身が「共産主義」体制の問題点を理解している点も留意しておくべきだろう。 【江崎道朗】 1962年、東京都生まれ。評論家。九州大学文学部哲学科を卒業後、月刊誌編集長、団体職員、国会議員政策スタッフを務め、外交・安全保障の政策提案に取り組む。著書に『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』(PHP新書)、『アメリカ側から見た東京裁判史観の虚妄』(祥伝社)、『マスコミが報じないトランプ台頭の秘密』(青林堂)など
(えざき・みちお)1962年、東京都生まれ。九州大学文学部哲学科卒業後、石原慎太郎衆議院議員の政策担当秘書など、複数の国会議員政策スタッフを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究に従事。主な著書に『知りたくないではすまされない』(KADOKAWA)、『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』『日本占領と「敗戦革命」の危機』『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』『緒方竹虎と日本のインテリジェンス』(いずれもPHP新書)、『日本外務省はソ連の対米工作を知っていた』『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』(いずれも扶桑社)ほか多数。公式サイト、ツイッター@ezakimichio

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 ’17年、トランプ米大統領は中国を競争相手とみなす「国家安全保障戦略」を策定し、中国に貿易戦争を仕掛けた。日本は「米中対立」の狭間にありながら、明確な戦略を持ち合わせていない。そもそも中国を「脅威」だと明言すらしていないのだ。

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