更新日:2017年11月15日 18:02
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消費税増税のペテンを暴いた安倍首相。民主党と財務省による「緊縮財政政策」とは決別を【評論家・江崎道朗】

江崎道朗のネットブリーフィング 第21回】 トランプ大統領の誕生をいち早く予見していた気鋭の評論家が、日本を取り巻く世界情勢の「変動」を即座に見抜き世に問う!

増税による増収の8割が「政府の借金」返済?

江崎道朗

江崎道朗(撮影/山川修一)

 これまで「年金や介護、医療などを充実させるためには消費税増税はやむなし」と説明されてきた。実はこれが真っ赤な嘘であることが安倍首相の会見によって明らかになった。  安倍首相は2016日9月25日、2019年10月に予定されている消費税を8%から10%へと引き上げることに関して、こう述べたのだ。 《2%の引き上げにより、5兆円強の税収となります。現在の予定ではこの税収の5分の1だけを社会保障の充実に使い、残りの5分の4の4兆円余りは借金の返済に使うこととなっています。この考え方は、消費税を5%から10%へと引き上げる際の前提であり、国民の皆様にお約束していたことであります。この消費税の使い道を私は思いきって変えたい。》(9月26日付産経新聞、以下同)  現在の仕組みだと、消費税増税の税収5兆円のうち、社会保障に使われるのはたったの1兆円にすぎず、残りの4兆円は「政府の」借金返済に当たられる予定というのだ。なんでこんなバカなことになっているのか。原因は、民主党政権と財務省にある。  2012年、民主党の野田政権のとき、「社会保障と税の一体改革」と称して「消費税を増税することで社会保障を手厚くする」という合意を当時の民主党、自民党、公明党の三党が結んだ。この三党合意に基づいて消費税増税は実施されてきた。  ところがこの「三党合意」は、増税の増収分の大半をこれまで政府が作った借金返済のために使い、実際に社会保障に使うのは僅か2割程度という「詐欺」まがいの仕組みだったのだ。  もちろん、この合意に賛同した自民党や公明党にも責任はあるのだが、「これはおかしい」というのが安倍首相の意見だ。  9月18日付読売新聞もこう書いている。 《12年の与野党合意に基づく社会保障・税一体改革では、消費税5%からの引き上げ分は全て社会保障に充てることになっている。  しかし、10%への引き上げ時に、子育てや介護などを充実させるための財源に回るのは、このうち1%分(約2.8兆円)にとどまる。残る4%分(約11.2兆円)は、社会保障制度を安定化させるためとして、実際には国の借金返済などに充てられる。14年4月の8%への引き上げ後の政府予算もおおむねこの配分で組まれており、首相は「増えた税収の8割を借金返済に使われた」と周囲に不満を漏らしてきた。》  そこで消費税増税分の使途を見直し、子育て世代にプラスとなる教育無償化などの財源にしたいと安倍首相は訴えたわけだ。

アベノミクスを失速させた「買い物に対する罰金」制度

 安倍首相の会見では、もう一つ、重大な争点が提示されている。  第二次安倍政権は、新しい経済政策、アベノミクスを提唱した。このアベノミクスは、次の三本の矢で構成されている。  第一の矢が「大胆な」金融政策。つまり日本銀行と連携して一万円札を大量に刷るということだ。  第二の矢が「機動的な」財政政策。この十数年、公共事業を敵視し、緊縮財政を続けてきたが、それを止めて、政府主導で財政出動をしようということだ。  第三の矢が「民間投資を喚起する」成長戦略だ。規制緩和を通じて外国人観光客を呼び込んだり、働き方改革をしようとしている。  このアベノミクスによって20年以上続いたデフレ、つまり経済成長が止まっていた日本経済は再び上向くようになった。  安倍首相も会見でこう強調している。 《5年前、国民の皆様のお力を得て、政権を奪還しました。当時、私たちが公約に掲げた大胆な金融政策には大変な批判がありました。しかし、総選挙で勝利したからこそ実行に移すことができた。アベノミクス「三本の矢」を放つことで日本経済の停滞を打破し、マイナスからプラス成長へと大きく転換することができました。今、日本経済は11年ぶりとなる6四半期連続のプラス成長、内需主導の力強い経済成長が実現しています。雇用は200万人近く増加し、この春大学を卒業した皆さんの就職率は過去最高です。》  確かに景気は回復しているが、その恩恵は大都市圏にとどまり、地方経済はいまなお厳しい。その原因は、大きく言って2つある。  一つは、「大胆な」金融政策を実行した結果、市中に大量の一万円札が出回るようになり、景気は回復を始めた。だが2014年に消費税を8%に引き上げたため、GDPの6割を占める個人消費が一気に落ち込んでしまったのだ。  消費税は、「買い物に対する罰金」とも呼ばれている。物を買うたびに罰金を取られるこの仕組みのまま罰金の額をあげ、かつその税収が安倍首相も指摘したように「政府の」借金返済に使われ、現役世代にはほとんど還元されなかった。  このため個人消費が一気に冷え込んだ。そうなると、多少の資金に余力があっても民間企業は、新規採用や賃上げを含む設備投資に踏み切ることをためらうことになる。  だからこそ3年前の総選挙で安倍政権は、「消費税増税の延期」を争点にしたのだ。この総選挙で勝利し、安倍政権は消費税増税を延期したが、減税にまで踏み込まなかったので、その悪影響が続き、現在に至るまで景気は伸び悩んでいる。
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機動的な財政出動を禁じた財務省と菅民主党政権
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(えざき・みちお)1962年、東京都生まれ。九州大学文学部哲学科卒業後、石原慎太郎衆議院議員の政策担当秘書など、複数の国会議員政策スタッフを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究に従事。主な著書に『知りたくないではすまされない』(KADOKAWA)、『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』『日本占領と「敗戦革命」の危機』『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』『緒方竹虎と日本のインテリジェンス』(いずれもPHP新書)、『日本外務省はソ連の対米工作を知っていた』『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』(いずれも扶桑社)ほか多数。公式サイト、ツイッター@ezakimichio

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