「国家権力ってすごいもんだな」原一男監督、最新ドキュメンタリーへの思い
――今回の映画について「自分自身に激を飛ばす映画」とも表現されていますよね。
原:私は20代の頃、自分は弱くて臆病だというコンプレックスがあって、奥崎さんのような強い人に憧れを持っていたんです。だから昭和の時代は強い人を映画にしてきたんですが、現代ではどこを探してもそんな人はいない。さてどうしよう、と悩んでいるときにアスベストの撮影の話が来て、藁にもすがる思いで撮り始めました。
そして撮影が始まって、初めて気付くんです。「この人たちは、20代のころに自分が否定していた弱い自分と同じじゃないか」と。でも、自分がやっていることを肯定しなければエネルギーは湧いてこない。「この時代では弱い人を撮るしかないじゃないか」と居直るしかないですよね。
そして、何を描くべきか探りながら撮影を進めるうちに、怒りをまっとうに見つめない現代人の生き方が、国家権力に唯々諾々と従う結果を生んでいるのだという思いが強くなってきました。自分を含め、怒ることを忘れた日本人に向かって挑発する映画を作りたかったんだな、と今なら言えます。
――原監督は現在、水俣病の裁判闘争も取材中です。そちらは本作をも上回る10年以上撮影されていますが、撮影状況はどうですか?
原:アスベストと水俣の2つの映画を「民衆シリーズ」と呼んでいるのですが、水俣のほうが映画にしていく上での難しさを感じています。アスベストは、裁判闘争を通してみんなの気持ちがひとつになっていってくれる。
しかし水俣は、市民運動が長年続いていくなかで、仲間内での憎悪が生まれてしまっているんです。こういうマイナスのエネルギーというのは映画にしにくいんですよね。
――水俣はどんなメッセージを込めた映画になりそうですか?
原:アスベストもそうでしたが、撮影が終わってみないとわかりませんね。私が昭和時代に撮った4本は、私が被写体に強く惹かれて撮っているので「こういうメッセージになるだろう」というイメージが始めからありました。
でも平成の作品は、どういうメッセージがありうるか、正直なところわからないまま撮っています。私たちの作品に限らず、現代に作られたドキュメンタリー映画って、「日本人の生き方にはこれが必要」というような明確で強いメッセージを持って作られたものなんてないんじゃないですかね?
最近は「おじいちゃん、おばあちゃんが夫婦仲良く暮らしていてよかったね」みたいな映画が多いですよね。それはそれで結構ですけど……。お年寄りって、いわば”過去”じゃないですか。それを見て、「ほのぼのしていていいんですかね、この国は!」っていう感じですよ。
いい映画だとは思いますけど、私にはああいう映画、とてもじゃないけど作れないです。私自身が全然ほのぼのしてませんもんね(笑)。
<取材・文・撮影/鴨居理子>
『ニッポン国VS泉南石綿村』
2018年3月10日よりユーロスペースほか全国順次公開
イオンシネマりんくう泉南にて2月3日より1週間限定先行上映中
映画公式サイト:http://docudocu.jp/ishiwata/
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