「国家権力ってすごいもんだな」原一男監督、最新ドキュメンタリーへの思い
『ゆきゆきて、神軍』『全身小説家』などのセンセーショナルなドキュメンタリー作品で知られる映画監督、原一男。世界に衝撃を与えた『ゆきゆきて、神軍』から31年、待望の最新作が今年3月10日より全国順次公開される。
大阪・泉南地域の石綿(アスベスト)工場の元労働者とその親族が、アスベストの人体への危険性を知りながらその規制を怠ったとして国の責任を問う、裁判闘争の全てを記録したドキュメンタリー映画『ニッポン国VS泉南石綿村』。
今回は本作への思いや制作過程での苦悩を原監督自身に語ってもらった。
――昨年10月の釜山国際映画祭では最優秀ドキュメンタリー賞の受賞、おめでとうございます。すでに国内でもいくつかの劇場で先行上映されていますが、反響はどうですか?
原一男(以下、原):今のところ、私が懸念していた以上に好意的に観てもらえているようで、正直ホッとしています。日本人の特性なのかもしれませんが、ネットの書き込みなんかでも批判的なものはほとんどないですね。なので、これからもっとたくさんの人に観てもらわないと、実際の反響はまだわからんですよ(※取材は1月19日に行われた)。
――釜山国際映画祭での反応はいかがでしたか?
原:賞をいただいたので、審査員のアメリカ人の方に、恥ずかしながら「この映画のどこが面白かったんですか?」と聞いてみたんです。そしたら「原告団も撮影クルーも、8年間よく頑張った。そこに敬意を表したい」と言われたんです。アメリカのドキュメンタリーは効率が第一の作り方なので、そこと比較して褒めてくださったわけです。
でも、僕はそれにものすごく抵抗があるんです。いつまでも「撮れた!」という実感がないから8年間、裁判が終わるまで付き合っていたというだけですから。撮れなきゃ撮れるまでやるしかないじゃないですか。だから私は編集期間も入れて10年間、この作品に取り組んだということをウリにするつもりはまったくないんです。
――ご自身のツイッターで「8年かけて撮れたものもあれば、撮れなかったものもある」とツイートされていましたよね。詳しく聞かせてもらえますか?
原:まず撮れたものですが、「泉南アスベスト国賠訴訟」原告団の中心人物である柚岡さんという男性が、映画のラスト近くに「私たち原告団は弁護団の戦術に乗っかる形で役割を演じるしかなかった」という言い方をするんです。
つまり原告団は彼らの持つ怒りや悲しみのもとに、本心で動いたわけではなかったということに対して批判をするんですね。撮影を通して私自身もずっと思っていたことを言葉にしてくれたので、「怒るべきときには怒らなくてはいけないのである」という、この映画の最も強いメッセージとして、この映画の中に入れることができました。
『ニッポン国VS泉南石綿村』
2018年3月10日よりユーロスペースほか全国順次公開
イオンシネマりんくう泉南にて2月3日より1週間限定先行上映中
映画公式サイト:http://docudocu.jp/ishiwata/
この記者は、他にもこんな記事を書いています
ハッシュタグ