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「国家権力ってすごいもんだな」原一男監督、最新ドキュメンタリーへの思い

原一男監督

原一男監督

――柚岡さんは、安倍首相に直訴するために弁護団には無断で首相官邸に突撃したりと、弁護団と衝突したりする場面もありましたね。 原:はい、私たちは「怒りの柚岡」と呼んでいました。それとは対照的に、2014年に当時の塩崎恭久厚生労働大臣が原告団に謝罪する機会が持たれたあと、ある原告の方があっさりと「もう怒りはありません」「いい人だなと思いました。あの人は信頼できます」と言ったんです。  僕は「石綿のせいでもの凄くしんどい思いをしてきたはずなのに、この人たちは何を言ってるの!?」って、納得がいかなかったんですよ。でも、これが現代における”民衆の怒りの限界”というようなことなのかな、と。  ここまで来るのに8年もかかっているもんだから、実に純粋な気持ちでああいう言葉が出たんだと思いますよ。僕は納得できなかったけど、あれは1~2年では撮れない表情と言葉だと思いました。8年間一緒に闘ってきたからこそ撮れたシーンだと思っています。 ――では逆に、8年かけて撮れなかったものは? 原:「アスベストの病気によって家族関係が壊れていく」という場面を描ききれませんでしたね。原告のご家族の話ですが、アスベストによる呼吸困難に苦しむお母さんはその辛さや日々の不平不満を娘にぶつけるんです。  でも、娘さんは他の家族の世話もしなくてはならないので、相手をするにも限界がある。こういうストレスが何年も続いていくんです。ただ、こういう場面は家族にとって隠しておきたい部分なので、撮影を許可してもらえないんですよ。そこを最後まで突破できなかった悔しさが、今でも残っていますね。  もうひとつ、この病気が残酷なのは“絶対に治らない”ということです。この先、自分の生き方を選択するという自由がないという残酷さ。そこを、家庭の中に入り辛い状況を撮影することでもっと表現したかったですね。  たとえば『ゆきゆきて、神軍』の奥崎謙三にはプライバシーなんてなくて、むしろ「このシーンを撮ってほしい」という要求が際限なくありました。それに比べると今回の被写体はごく普通の生活者なので、「ここから先は他人に踏み込んでほしくない」という線引きがしっかりと存在する。そこがとても難しかったですね。
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試写会では意外にも客席から笑いが起こるシーンも…
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『ニッポン国VS泉南石綿村』
2018年3月10日よりユーロスペースほか全国順次公開
イオンシネマりんくう泉南にて2月3日より1週間限定先行上映中
映画公式サイト:http://docudocu.jp/ishiwata/
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