レイ・スティーブンス&パット・パターソン “金髪の爆撃機”はバンプの名人――フミ斎藤のプロレス講座別冊レジェンド100<第28話>
ふたりにひとつだけ大きなちがいがあるとしたら、それはスティーブンスのライフスタイルがいわゆる“破滅型”で、パターソンのそれはきちょうめんで“貯蓄型”だったことかもしれない。
スティーブンスのホームリングがどこだったかといえば、おそらく36年におよぶキャリアのなかでいちばん長い時間を過ごしたサンフランシスコのビッグ・タイム・レスリングBig Time Wrestlingということになるのだろう。
サンフランシスコのプロモーターのロイ・シャイアーRoy Shireとスティーブンスは、1950年代に兄ロイと弟レイのシャイアー・ブラザースとしてオハイオ、インディアナ、ジョージアをいっしょにサーキットしたレスリング・ブラザーだった。
1960年にサンフランシスコに新団体を設立したシャイアーは、本拠地カウ・パレスの看板スターにスティーブンスを起用し、初代USヘビー級王者に認定した。
ヒールのスティーブンスがチャンピオンで、チャレンジャーはベビーフェースの大物というのがサンフラシスコのプロレスの基本形だった。
ディック・ザ・ブルーザー、ウィルバー・スナイダー、ボボ・ブラジル、ビル・ミラー、ベアキャット・ライトBearcat Wright、“カウボーイ”ボブ・エリス“Cowboy”Bob Ellisといったスーパースターたちが入れ代わり立ち代わりサンフランシスコにやって来てはUS王座に挑戦し、スティーブンスは負けそうで負けない悪役チャンピオンとしてチャンピオンベルトをキープしつづけた。
地元サンフランシスコをホームリングとするベビーフェースでは、メキシコ系のペッパー・ゴメスPepper Gomezがスティーブンスの宿命のライバルだった。2週間にいちどずつ開催されるカウ・パレス定期戦はつねに1万人クラスの観客を動員した。
サンフランシスコのファンをもっとも興奮させた試合は、WWE世界ヘビー級王者ブルーノ・サンマルチノがニューヨークから西海岸にやって来て、US王者スティーブンスと対戦したダブル・タイトルマッチだった(1967年7月15日)。
スティーブンスはサンマルチノを場外カウントアウトで下し、2本のベルトを統一した。WWE(当時はWWWF)はタイトルマッチ・ルールでカウントアウト裁定による王座移動を認めなかったが、その日、カウ・パレスに集まった観客はそれから何年間もスティーブンスが世界チャンピオンになったものと信じつづけた。
ケーブルテレビも衛星放送もインターネットもなかった時代のオールドファッションな“おとぎばなし”ということになる。
スティーブンスのニックネームは“ブロンド・ボンバーThe Blond Bomber=金髪の爆撃機”で、十八番はトップロープから急降下してのニードロップ、アトミック・ボムズ・アウェイ(フットスタンプ)。
パターソンとコンビを組むときのタッグチーム名はザ・ブロンド・ボンバーズ。1960代のサンフランシスコでボンバーといえば、スティーブンスとパターソンと当時、プロレスと並び西海岸エリアの人気スポーツだったローラーゲームのベイ・ボンバーズのことだった。
スティーブンスは1960年から1970年までの11年間でUS王座を通算9回獲得し、パターソンとのコンビではサンフランシスコ認定NWA世界タッグ王者として活躍した(通算2回保持)。
プロレスは長編ドラマだから、現在進行形の物語が終わって新しい物語のがはじまる瞬間がやって来る。
サンフランシスコ・マットのターニング・ポイントはスティーブンスとパターソンの“仲間割れ”の章だった。
ヒールの名コンビがケンカ別れすると、観客はそれまで大悪役だったスティーブンスに熱狂的な声援を送り、パターソンに激しいブーイングを浴びせた。
スティーブンスとパターソンはそれぞれ新しいタッグパートナーを起用し、まずNWA世界タッグ王座をめぐる新しいドラマがスタートを切る。
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