“上手に生きられない人たち”を救うのが青春物語――現役書店員3人が胸を熱くする本とは?
伊野尾:1か月経って帰って来ると、よそよそしいんです。会話の端々に微妙な間があってぎこちない。その後やっぱり別れ話をされて、「俺を置いて彼女は変わっちゃったんだ」ってオイオイ泣いてたんだけど、今考えるとヒロイズムも甚だしいですね。
市川:やはり青春にはヒロイズムが……。
伊野尾:最後は島田潤一郎の『あしたから出版社』。これは夏葉社というひとり出版社を立ち上げた男性の自伝みたいな感じなんですけど、やたらと失恋話が多い!(笑) モテなくてなんの取り柄もないウジウジした若者が、就職もできず、気になる女の子にも振り向いてもらえず、しかも最愛の理解者だった従兄が死んじゃって、何もうまくいかず……。
●島田潤一郎『あしたから出版社』(晶文社)
<本づくりを愛し、「生きにくい社会」での数々の挫折を乗り越えながら、ひとり出版社“夏葉社”を立ち上げた著者の自伝。「20代の人たちにもぜひ読んでほしい本」(伊野尾)>
花本:ないない尽くしの状況じゃないですか。
伊野尾:だけどそこから自分ひとりで出版社を始めるんです。これは本当にいい本ですね。すごい青春がある。別に大きな成功はしていなくて、それでも「なんとかなるんだな」って感覚を与えてくれる。
市川:そういう感覚をくれる本って大事だなぁ。
花本:爪さんの本も「どうにか生きていこう」と思わせてくれますよね。
伊野尾:だって「死にたい夜」だからね。
花本:伊野尾さん、死にたくなったときってありますか?
伊野尾:やっぱり失恋したときですかね。酒に頼ったりひとりで走ったりしてた。
市川:走るって!?
伊野尾:家にいると別れた相手のことを延々と考えて辛くなるじゃん。だから気を紛らわすために外を走るんだけど、横断歩道とかで「もう一生あの人に受け入れられることはないんだな、死んじゃおうかな」って。
花本:でもさ、そういう自分に酔ってるところもあるんだよね。
市川:その姿を彼女に見てほしいみたいなところもあって。
伊野尾:完全にそれなんですよ(笑)。今ツイッターで「死にたい」とか言っちゃう人をメンヘラって蔑んだりするけど、20年前にツイッターがあったら絶対に我々も笑えないことになってましたからね。
花本:やっぱり失恋って青春感あるなあ……。
伊野尾:でも俺が思うに、モテる男は恋愛を特別なトピックとして描かないんだよ。常に横に女の子がいるのが当たり前だから、書く必要はないんです。同じように、充実した青春を送った人は青春小説を読む必要はない。EXILEに青春小説はいらないんですよ(笑)。
市川:そもそも毎週末遊びに行くところがあれば本屋に行かなくてもいいわけだし。
伊野尾:そういうところから外れた人たちに対して、本屋は門戸を開いているんですよね。
花本:吹き溜まりだ(笑)。そして店員の我々も、本屋しか行くところがないという……。
伊野尾:でもそこがいいところなんだと思いますよ。本屋が行き場所がない人たちの居場所であるように、青春小説も上手に生きられない人たちに“もがきながらなんとかやっていく”っていう道を示してくれるものなのかも。
市川:「死にたい夜」を助けてくれる、優しい本が増えたらいいですよね。
<取材・文/餅井アンナ 撮影/杉原洋平>
青春物語が示す“もがきながら生きていく”道
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