“上手に生きられない人たち”を救うのが青春物語――現役書店員3人が胸を熱くする本とは?
今、「男の青春物語」が静かに世間を揺らしている。燃え殻『ボクたちはみんな大人になれなかった』や、爪切男『死にたい夜にかぎって』と、中年男性に響く青春小説がヒットを重ねているのだ。過ぎ去りし青い春は男たちの心を掴んで離さない。恋に破れ、性欲に振り回され、何もかもうまくいかなかったのに、どうしようもなくきらめいていた“あの時代”。男たちの胸を熱くさせる“青春”とは一体何なのか? 現役書店員3人が推薦する「男に読んでほしい青春物語」を、各々の思い出とともに、熱く語ってもらった。
伊野尾宏之(左):’74年生まれ。中井に店を構える伊野尾書店の2代目。20代の頃は失恋するたびに夜の街をひとり走っていた。
花本武(中央):’77年生まれ。吉祥寺の書店・BOOKSルーエの“棚名人”。ポエトリーリーディングでブイブイ言わせていた過去あり。
市川淳一(右):’81年生まれ。丸善ラゾーナ川崎店の文庫担当。モヤシな自分へのコンプレックスからマッチョに憧れる青春時代を過ごした。
伊野尾:最近、爪さんとか燃え殻さんみたいな中年男性向けの青春小説が売れてますけど、こういうのって20年くらい前だと文学としてはあまり認められてなかったよね。
花本:それこそ大槻ケンヂとか、確かに存在はしていたけど「文学」とは呼ばれてなかった。
伊野尾:やっぱりサブカルというか、村上春樹的なメインストリームに乗れない人たちのものって感じ。でもその棲み分けが最近はなくなってきたような。「いい歳してダメな男たち」の存在が認められてきたってことですかね(笑)。
市川:しかしそもそも「青春物語」とは何ぞや、という問題があり……。やっぱり僕は“自分の青春を思い出させる”ものなんじゃないかと。
花本:みんな「俺にとっての青春物語の条件」があるんだよね。
市川:というわけで、一冊目は爪切男さんの『死にたい夜にかぎって』。初体験が冬木弘道似の車椅子の女性だったり、初恋の女の子に自転車を盗まれたり、精神が不安定な彼女に夜な夜な首を絞められたり……とにかく色んな女性に振り回されてきた男性の自叙伝なんですよね。
伊野尾:これは本当に青春の匂いがする本。
市川:著者の爪さんは’79年生まれなんですけど、同世代としてはどうしても自分の青春時代を重ねてしまうというか。
●爪切男『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)
<文学フリマ発の“野良の異才”・爪切男のデビュー作。個性の強すぎる女性たちに振り回されてきた半生を、笑いと悲しみに満ちた筆致で綴る。『日刊SPA!』での連載を改題のうえ、大幅に加筆修正したもの>
伊野尾:作中に描かれてる2000年代って、すでにある種の懐かしさがあるじゃないですか。
花本:「あの時代」感がありますよね。
市川:すごくキャッチーなフレーズが多いんですよ。僕が惹かれたのは“神谷沙織似の彼女”!!
花本:神谷沙織、僕めっちゃ好きだった~! 僕もほぼ世代なんですけど、ズルいなって思いました。
市川:思いますよね!? 彼女が精神的に不安定でっていうのはあるにしても、「でも神谷沙織似なんでしょ!?」ってなる(笑)。あと、自転車に乗るようになったら古本屋で遊人の漫画を全巻買う、ってあたりとかも……。
花本:「わかる~!」って感じですよね。遊人なんて部室に必ず一冊はある、男は必ず通る道ですよ。
伊野尾:あれはグッときた。’90年代ってまだネットもないし、若者の欲求が向かう先ってもうテレビ、ビデオ、本、漫画しかなかった。若者の中ではエロが当然一番だから、エロコミックが今よりも全然メインカルチャーだったわけで。
書店員たちが語りたくなる「青春物語の条件」とは
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『死にたい夜にかぎって』 もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー! |
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