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東條英機がなぜ首相なれたのか? 昭和研究の第一人者・保坂正康が解き明かす昭和の謎

今に通じる政治のカラクリ

 僕はずっと「どうしてこんな人が首相になれたんだろう?」と思っています。それがこの本で、少し分かりました。  二・二六事件で、陸軍内で対立する派閥が力を失い、いきなり主流派になったこと。近衛文麿首相が陸軍の好戦論に疲れて辞意を示した時、木戸幸一達は、強行派の陸軍を取り込むために、あえて東條を首相にしたこと。一か八かの賭けにでた、ということです。  そして、その賭けは最悪の結果を生みました。  この本は、東條英機と石原莞爾を比較したり、何人かの昭和の興味深い人達を描写しているのですが、その一人に、犬養毅首相がいます。
犬養毅

犬養毅像

 五・一五事件の時、首相官邸に押し入った青年将校隊達に対して、犬養首相は、「話せばわかる」と答えたと言われています。けれど、将校達は、引き金を引いたと。  けれど、実際は、「まあ、靴でも脱げや、話を聞こう」でした。  僕は「話せばわかる」という言葉にずっと強烈な違和感を持っていました。銃を持って押し入ってきた将校達に対して、「話せば分かる」と言うのは、あまりに楽観的で、現実を見ていないように感じたのです。 「話を聞こう」なら分かります。冷静になれ。とにかく話そう。落ち着け、という技巧も感じます。  では、なぜ、「話せばわかる」という言葉が広く伝わっているのか。  保阪さんは、そこに政治的なカラクリを見ます。 「話せばわかる」という表現は、それだけで存在するわけではない。「その話なら」と限定された言葉と対になって使われるはずである――と分析し、「その話とは一体何だったのか?」と続けます。  それは、張学良から犬養首相が金をもらったという噂であり、そのことなら「話せばわかる」、というのです。  それは、陸軍の憲兵隊が意図的に流した噂であり、張学良から金をもらうような首相は、殺されても仕方がないと思わせ、五・一五事件の実行者達を弁護するための政治的噂なのだと、保阪さんは分析するのです。  今に通じるお勧めの一冊です。
ドン・キホーテ 笑う! (ドン・キホーテのピアス19)

『週刊SPA!』(扶桑社)好評連載コラムの待望の単行本化 第19弾!2018年1月2・9日合併号〜2020年5月26日号まで、全96本。
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本連載をまとめた「ドン・キホーテのピアス」第17巻。鴻上による、この国のゆるやかな、でも確実な変化の記録

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