「新宿のコンビニで拾った」大麻所持で逮捕された有名私大生による珍答弁<薬物裁判556日傍聴記>
―[薬物裁判556日傍聴記]―
身に覚えのない家宅捜査をきっかけに、薬物裁判を556日傍聴し、その法廷劇の全文を書き取ったという斉藤総一さん。556日も裁判の傍聴に通い続けるようになり、それだけでなく、彼は文字通りその法廷劇のやりとり全文を書き取ってきた。これまで「覚醒剤」の裁判を3件紹介してきたが、今回は大麻取締法違反。いわゆる「大麻」の不法所持だ。
※プライバシー保護の観点から氏名や住所などはすべて変更しております。
今回の被告は平成生まれの有名私大に通う大学生。被告は日暮貴志(22歳※裁判当初)。就職活動中の身の上です。まずは例によって検察の公訴事実の読み上げから。
検察官「はい。公訴事実。被告人は、みだりに平成28年12月21日、千葉県千葉市中央区古町2丁目の駐車場に駐車中の自動車内において、大麻である乾燥植物片約0.409グラムを所持したものである。罪名および罰条、大麻取締法違反、同法24条の2第1項。以上です」(検察・起訴状)
彼は友人と車内で大麻を吸っていたのですが、大麻の使用は罪ではないので、逮捕事由は「大麻の不法所持」ということになります。逮捕の経緯については、検察官の冒頭陳述で具体的に語られます。
検察官「(前略)被告人は自ら入手した本件大麻を自宅で使用し、その後、友人2名を誘って、中央区内の駐車場に駐車した自動車内で大麻を使用していたところ、警察官の職務質問を受け、本件が発覚しました。本件大麻は、被告人が入手した大麻のうち、被告人及び、被告人の友人らが使用した残部であります」
ちなみに日暮は実家住まいの有名私大生。それがこの法廷の全体に通底する、どこか呑気な印象を助長しているのかもしれません。そもそも日暮はどのように逮捕されたのか。少し長いですが、検察の説明を聞きましょう。
検察官「(前略)警ら中の警察官が、中央区に所在する店、サードストリートというお店の駐車場に立ち寄り警戒を実施したところ、被告人らが乗車した普通乗用自動車が駐車している状況を確認し、同車両はエンジンがかかっていない状態であるにもかかわらず、車内にいる男が数名で何かをしている様子であったことから、不審と認め、職務質問を開始したものであります。被告人の他に2名の同世代の男性が乗車しており、了解を得たうえで、運転席や車内を確認したところ、被告人の友人が警ら中の警察官に寄りかかるように倒れたり、小刻みに身体が震え出すなどの異変が起きたこと、車内から、お香を焚いたような匂いがあったことから、薬物使用の蓋然性を認め、職務質問を継続したところ、本件大麻を使用していて、本件大麻が存在することが発覚したという風になっております。以下は、被告人と自動車内で、一緒に大麻を吸っていた友人の供述調書です。被告人と大麻を使用した経緯等について供述をしています。その供述によりますと、犯行前日の12月20日の夜から高校時代の友達と飲み会をしていて、供述人は車で来ていたため、被告人らを自宅に送り届けようとしていたところ、被告人から、面白いものがあるからやってみないか? と言われ、どういった感じになるの? と聞いたら、ハイになれる、ご飯が美味しくなる。などという話があり、3人で一緒に使おうということになって、大麻を使用したという風に供述をしております。(後略)」
彼らの行動がいかに不審だったか。その場にいなくとも、検察官の説明から職質はやむなしという印象は免れません。現に日暮は被告として法廷に立っているわけで、警察は正しい職務を遂行したと言えそうです。
とはいえ「ハイになれる」「ご飯が美味しくなる」といった彼らのやり取りからは、犯罪に加担している自覚があまりないのが伺われます。日暮と検察官とのやり取りを聞いても、入手経路や使用の動機など、いずれもそれほど説得力があるようには思えませんでした。会話中に出てくる名前は、被告人と一緒に大麻を使用していた友人たちです。
検察官「けっきょく今回、警察に職務質問を受けるまで、大麻を大体でいいですけど、何回くらい使いました?」
被告人「捕まったときを含めて2回です」
検察官「最初に高峰君に使わせてもらってから、そのあとは、自分で大麻を手に入れたっていうことなんですか?」
被告人「高峰君からもらったのと、その後は、杉山君と拾ったやつです。」
検察官「その、まあ、ちょっと、あなたからの話を前提とするとね、昨年の8月頃に、新宿の東口のコンビニの近くかなんかで拾ったっていう話なんですけど、拾った時に、それは何だと思って拾っているんですか?」
被告人「大麻だと思って拾っています」
検察官「実際に使ってみて、以前大麻と言われて使ったものと同じような使用感はありましたか?」
被告人「はい」
検察官「でも大麻だとわかっていて、捨てずに置いていたのはなぜですか?」
被告人「ナップザックの中に入れていたのを忘れていました」
検察官「ただ、やらずに忘れていたってことなんですか?」
被告人「はい」
検察官「これ、あなたも認めているということで、有罪になりますけど、それで、前科がつくわけだけれども、あなたの大学のこととか、就職とか、そういったことに支障はないんですか?」
被告人「大学は行けています」
検察官「有罪の判決を受けても、退学になったりはしないですか?」
被告人「はい」
検察官「わかりました。それでは、就活に関しては、まだ続けているということですかね?」
被告人「はい」
検察官「以上です」
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自然食品の営業マン。妻と子と暮らす、ごく普通の36歳。温泉めぐりの趣味が高じて、アイスランドに行くほど凝り性の一面を持つ。ある日、寝耳に水のガサ入れを受けてから一念発起し、営業を言い訳に全国津々浦々の裁判所に薬物事案の裁判に計556日通いつめ、法廷劇の模様全文を書き残す
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