更新日:2019年02月08日 11:10
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「松井府知事ならバンクシー、消すんちゃう」 大阪のバンクシー作品探しルポ<グラフィティの諸問題を巡る現役ライター・VERYONEとの対話>第2回

バンクシーの作品集に載っていた写真とほぼ一致

 ある場所で、午前中にかつて「バンクシー作品を見た」という美術関係者(以下、A氏)とも合流し、ゆっくりと食事をしながら話を聞くこととなった。A氏が言う。 「いや、僕も気になったんで、確認してからここに来たんですけど、バンクシーは消されていましたね」  だが、ヴェリーさんがA氏に言う。 「多分なんだけど、それバンクシーじゃないと思いますよ。Aさんが見たのって8年ぐらい前でしょ。あの頃、大阪でもステンシルが流行ったんですよ」 「あれ、そうかな……」  そこで、私は持参したバンクシーの作品集『Banksy Wall and Piece』を取り出した。それを熱心に見る二人。そこで、ヴェリーさんがある発見をした。 「あー、これだ、これ。僕が昔に撮影していたネズミのステンシル」  この本の99ページに、ノコギリを持って地面を切っているネズミのステンシルがある。ヴェリーさんがかつて撮影したネズミはシルエットはボケているものの、この本の写真とほぼ一致しているように見える。ただし、この本には「バンクシーは、不本意ながら、1998年著作権・意匠および特許法の下で本著作物の著作権者であると見なされるよう自らの権利を主張する」と書かれているので、転載はできない。そして、そもそもグラフィティないしはストリート・アートの著作権とはどういうことなのか、ということは次回に考察する予定だ。

バンクシーが「不本意ながら」著作権を主張している彼の作品集『Banksy Wall and Piece』

 A氏が見たというバンクシー作品の真贋は不明だが、さまざまな「現場の人」の情報も含めて、これでほぼ大阪にバンクシー「作品」があった、ということは確定していいだろう。むろん、ステンシルなので誰かが複製したものかもしれないが、実はその真贋自体も「どうでもいい」と我々は考えている。あとは専門家にお任せ、というところだ。  とはいえ、せっかく大阪まで来たのに、撮影できたのは消えかけた「BANKSY」の名前と、犬のションベンにまみれたであろう、ノコギリネズミのあと(それももしかしたら、その後に書かれたものの痕跡かもしれない)。しかも、それも詳しい人たちには周知の事実だったものを確認しただけ、だ。 「消えちゃってたのは、少し残念ですね」 「いや、『ストリート・アート』みたいなものは、消されるなんて当たり前ですよ」とヴェリーさん。 「でも、もしもバンクシーの『作品』が残っていたら、松井(一郎)府知事は小池(百合子)都知事みたいな保護をするでしょうかね?」  ヴェリーさんとA氏が声をほぼ同時に声を揃えて言った。 「消すでしょ」「あいつは消すんちゃう」「消さなあかんでしょ」  一気に場が笑い声に包まれた。これが大阪の人の気質と断言していいのかは、今の私にはまだわからない。だが、「そのほうが大阪らしいな」とは思った。 ※次回に続く。次回は「グラフィティと著作権」について、VERYONEとの対話から考えていく予定です。このシリーズは全7回になる予定です。 取材・文・撮影/織田曜一郎(週刊SPA!)
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