更新日:2023年03月21日 15:44
スポーツ

女子空手の五輪メダル候補・植草歩「吉田沙保里さんのように競技の人気を高められる存在に」

脳は主語を理解しない

 これが冒頭で紹介した言葉の真意だ。 「勝てなかった頃にイヤだなって思ってた練習にしても、私はその練習によって国際大会で優勝できていたわけですよね。本当はどんなことにも意味はあるし、ムダなことなんか絶対にないのに、それがわからなかったから、あんな言葉が口をついてでていたんです」  実は脳科学や認知科学の世界では、ネガティブな言葉や思考が、本人をマイナスの行動に導いてしまう、ということがさまざまな研究によって証明されている。例えば、厳しく苦しい練習のあとに「今日はいい汗流したね」と言うのと、「今日はきつかったね」というのとでは、潜在意識に与える影響はまったく違ってくる。無理やりにでも「いい汗流したね」というと、脳には「良い練習をした」という記憶が刷り込まれていくのだ。 「私が教えてもらったのは『脳は主語を理解しない』というもので、誰かに『お前は弱いんだよ』っていうと、脳は自分のことを弱いと捉えてしまうそうです。だから、他人を罵倒してはいけないし、自分を罵倒するのもいけないって。それからは日常でも前向きで積極的な言葉を使うように変えていきましたね。すると、性格も変わるし、物事の捉え方も変わってきます」  言葉の重要性に気づき、練習に対しても前向きになれた2015年の全日本選手権。植草は初優勝を勝ち取った。「絶対に勝ちたかった。試合を楽しむことを心がけた」と試合後に語った彼女は最高の笑顔も取り戻した。

200kgのウエイトをかついでスクワット

 そもそも、植草の練習は蹴りや突きなどの空手の練習が2時間半、筋トレなどのフィジカルトレーニングを2時間半の計5時間をほぼ毎日行っている。彼女のツイッターを見ると、200kgのウエイトを持ってスクワットを10回こなす動画などもアップされており、想像を絶する練習をこなしていることがよくわかる。そんな彼女に、「よく『血ヘドを吐くぐらいまで練習する』って表現があるじゃないですか? そういう追い込んだ練習もするんですか?」と聞いてみると凄い言葉が返ってきた。 「本当に血を吐くわけじゃないんですけど、走ったり、バイクを漕いだりする有酸素運動で追い込むとノドの奥から血の味がするんですよ。そうなるのは、自分の肺活量と運動量が合ってないだけで自分が弱い証拠なんですけど、私としては『ノドに血の味がする! やりきったぁ! 限界を超えたからこそ、この味がしてるんだぁ!』って嬉しくなるんですよ」  常人には想像すらできない練習の質とメンタルだろう。植草歩と話をしていると、オリンピックを目指すアスリートの凄さ、怪物ぶりが本当によくわかる。 「ただ、足は凄く太くなってしまいましたけど。この前、あるテレビ番組の企画で太ももを計測したら、ウエスト61センチの女子アナウンサーさんの腰よりも私の太もものほうが太かったくらいです(笑)」  しかし、その太ももが、世界一といわれる中段突きのスピードの原動力となっているわけで、「これは練習の賜物ですし、勲章です」とやはり屈託なく笑う。  とはいえ、彼女は女の子であることを捨てているわけでは決してない。ファッションにも気を使うし、お化粧をするのも大好きだ。 「武道をやっているからといっても女の子の部分を捨てる必要はないと思います。メイクだってするし、お休みの日はおしゃれして出かけるし。この太い足だってワンピースを着れば隠れるんですよ(笑)。あとに続く、女の子たちのためにも、おしゃれをしながら空手もできるんだよっていうのを自分は見せていきたいですね」
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未来の植草歩
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