更新日:2023年03月21日 15:44
スポーツ

女子空手の五輪メダル候補・植草歩「吉田沙保里さんのように競技の人気を高められる存在に」

未来の植草歩

 現在、JALと所属契約を結び、全面的なサポートを受けている彼女。自分のチームも作って五輪のメダル獲りに向けて余念がない。 「フィジカルのコーチもそうだし、メンタルのコーチもそうですけど、素晴らしい人たちと出会って、私はここまでこれたと思います。取材の方々は私が無敵のように言ってくれますけど、実際には去年もいろいろ負けてますし、今年もいろいろ負けてます。でも、“目標”があれば、一つ負けたとしても、『今回はこの技で取られたから、これからはここを改善しよう』とか考えられるし、気持ちが乗ってなかったのならば、『どうやって気持ちを乗せたらいいか』とかいったアドバイスがもらえて、自分をポジティブにしていける態勢が整ってきました」  こういった態勢にしても、実は彼女の気づきの中から生まれてきたものであった。その気づきとは昨年の世界選手権での決勝でのことだ。2連覇がかかった、その大会は、さきほど本人が語っていた“目標”の大会だった。世界選手権で2連覇してオリンピックに弾みをつける。そういう予定であったが、前哨戦とも言える世界選手権の決勝で彼女は負けてしまう。 「勝つためにってずっと頑張ってきた大会でしたから、あそこでの負けはこたえました。苦しかったですね」  勝敗は時の運とは言いながら、やるべきことをすべてやって臨んだ大会で負けるというのは、相当なショックだっただろう。この挫折を彼女はどうやって乗り越えたのだろうか? 「遊びに行きました。普通だったら、テーマパークに行こう、みんなで盛り上がるところに行こうってなるんですけど、あの時はそういう気持ちにもならなくて。東京にいたら練習しなきゃいけないし、メディアの対応もしなきゃいけないので、東京から離れてゆっくりしよう。自然の中に行こうって決めて、屋久島まで行きました。そこで、スケジュールに追われないのんびりとした時間を過ごしたんです。そしたらリフレッシュできて自然って凄いなって思って帰ってこれました(笑)。時間に追われないってことが、その時の自分にとって一番良かったんだと思います」

自分で自分を分析する

 休む時には徹底的に休む。時には自分をいたわることも大切だということを学んだ彼女は、さらなる強さを身につけたようだ。 「自分はもう学生じゃないので、自分で自分の管理をしなければいけないってことですね。自分でオフも作るようにしていますし、練習メニューも考えます。簡単に言ったら植草歩という選手を勝たせるために、植草歩という監督がいて、その監督がトレーナーさんやコーチに指示を出して、選手の植草歩を育てる、というのがいまの自分の状況だと思うんです。自分は選手であり、ディレクターなんです。それができなければ個人競技では勝つことはできません」  こう聞くと、すべてを自分一人で管理し、自分一人で処理しているように感じるが、実はそうではない。世界選手権の負けで最も大きな収穫だったのは人に頼ることだった。 「自分で自分をちゃんと分析して、分析しきれないところはコーチやトレーナーさんにサポートしてもらって、自分を最善の状況に持っていけるようにするのが大切だなって思ったんです。世界選手権の負けって、負けたからこそ見えてきたものがあって、それは、いままでのやり方ではいけなかったってことです。いままでは、自分ひとりでやろうとしていたことがたくさんあったんです。でも、それでは勝てないってわかったので、もっとチームの人に頼って、情報を共有してオリンピックまで進んでいこうっていうことが見えてきました。たぶん、いままでの私は植草歩のディレクターというだけでしたが、いまはチーム植草歩のディレクターなんです。信頼して任せる、信頼して頼るってことを見つけたら、負けて苦しいというのは全部なくなりましたね」  大きな負けを克服し、最高のチームを手に入れた植草歩。最大の目標であるオリンピックの金メダルに向けて、ピタリと照準を定めることができたようだ。 「やっぱりオリンピックでは勝ちたいです。勝って、レスリングの吉田沙保里さんのように競技の人気を高める存在になりたいですね」  最後に、オリンピックのあとはどうするつもりなのかを聞いてみた。 「まだ考えていません。選手を続けるか、引退するのかの2択ですよね。う~ん、どっちにするかっていうのは金メダルをとって、そこで自分がなにを感じるかで決めたいなって思っています」  さらりと言った「金メダルを取ってから」という言葉。どこまで言ってもポジティブな彼女が五輪の舞台でどこまで高みに登るのか? そしてどんな表情を見せるのか? いまから期待は高まるばかりなのである。〈取材・文/中村カタブツ 企画・撮影/丸山剛史〉 植草歩 1992年7月25日千葉生まれ。小学3年生から空手を始めて、5年生で全日本少年少女空手道選手権3位入賞。日体大柏高校では全国優勝も経験し、帝京大学に空手の特待生として入学。大学時代には世界選手権で3位、世界学生選手権などで優勝。大学卒業後には全日本選手権4連覇、世界選手権優勝など輝かしい成績を残している。 【植草選手への一問一答】 好きな食べ物/焼き肉と寿司。全日本強化選手のメンバーで行くのが楽しいです。 試合前に聴く曲/May J.の「Garden」。アップテンポな曲で気持ちが高まります。 カラオケ/浜崎あゆみの「BLUE BIRD」が十八番。 会いたい芸能人/岡田准一さん。俳優だけでなく、ジークンドーも極めているのが凄いなって思います。いつかお会いできたら嬉しいです。
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