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パラカヌー女子代表・瀬立モニカ。両下肢まひの苦難から一転、世界を目指す

カヌーは“水上のF1”

瀬立モニカ選手

「来年はいよいよ東京パラリンピック。私は江東区出身なのですが、カヌーの会場がここ江東区に決まったということで、さらに闘志がかき立てられています。たくさんの人から『応援にいくよ』と言われているし、地元のみなさんと最高の時間を共有したくて。でも、そのためにはやっぱりメダルが必要。メダルといってもいろんな色があるけど、私が狙っているのはもちろん金。その覚悟を持って、今は毎日の練習を頑張っているんです」  こう熱く語るのは、パラリンピックのカヌーで頂点を目指す瀬立モニカ(21)。カヌーとは、カヤックもしくはヴァ―(本体横に浮き具がついている艇を操縦。左右どちらか片方のみを漕ぐ)で200mのスピードを争う競技だ。障害の程度によって3つのクラスに分かれる。2016年のリオ大会からパラリンピック正式競技として採用された。 「カヌーの魅力は“水上のF1”と呼ばれることもあるくらいのスピード感。生で見ると迫力が尋常じゃなくて、パドルを回すシュッシュッという音が聞こえてくるんです。選手間の駆け引きも面白いですよ。スタートからバッと飛び出す選手もいれば、途中からジリジリ攻めていって最後に差す選手もいる。私自身はスタートから100メートル地点までのダッシュを得意としていて、そういった瞬発力に関しては、世界のトップ選手とも互角に戦える自信がありますね。だからスタート直後の1パドル目から注目していただけたらと思います」

高校の体育の授業で…

 瀬立がカヌーに出会ったのは中2のとき。類まれな身体能力を武器に東京国体を目指していたが、高校での体育の授業中に事故は起こった。倒立前転に失敗し、両下肢まひになってしまったのだ。これにより瀬立は車椅子生活を余儀なくされたものの、約1年のリハビリを経て競技に復帰。カヌー選手として改めて世界を目指すことを決意する。 「カヌーは健常者と障害を持った人でさほど違いがない競技と言えるかもしれません。普通に水の上で漕いでいる選手がいて、カヤックから降りたときに初めて『えっ、足がなかったの!?』と驚くこともありますから。それくらい見ているぶんには差がわかりづらいんです。だけど実際にやる側としては、健常者と違う部分で苦労することもやっぱり多い。そこは代わりの動作でフォローしていくことになるんですけどね」  瀬立によると、健常者との最大の違いは腹筋・背筋に頼ってパドルに体重を乗せられないこと。足の踏ん張りが効かないため、とにかく腕の力で前に進むしかない。腕のパワーを鍛えるため、普段から水上と同じくらいの比率でウエイトトレーニングを行っているそうだ。 「大体、朝8時から11時までが水上での練習。11時から13時までは昼食を摂って、フォームの研究、それと休憩。13時から15時くらいまではウエイトをこなして、ガシガシと筋肉をつける。17時から19時まではパーソナルトレーニング。ここでは身体のバランスや体幹を整えます。ジョギングもしますね。ただやみくもに筋肉をつけてもしょうがないですから。効率的に筋肉を使える身体にしていかないと。そこから家に帰って食事をすると、もうすぐに寝る時間という感じ。そんな生活が1週間に6日続きます。競技漬けの毎日ですよね。本当に普段はカヌーしかしていない。でも、恵まれた環境だと思います」
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基礎代謝は健常者の2分の1
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