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「不法在留外国人の麻薬取引」をイラン人被告が明かす<薬物裁判556日傍聴記>

反論の余地はないが、「酌むべき事情」も

 ちなみに検察の口からも語られますが、被告は不法滞在で、ここまで検察の論告を見る限り、反論の余地はなさそうです。弁護士は「被告は公訴事実を裁判の最初から認め、争う気はない」と言います。但し「被告には酌むべき事情があった」と。 弁護人「(前略)被告人は土木作業員として働いていた頃、作業現場で高さ4メートルくらいの階段から転落する事故に遭い、右足太ももの付け根あたりを骨折してしまいました。それ以降カリムさんは足が不自由になり、これまで行ってきた肉体労働のような仕事に就くことはできなくなってしまいました。現在もカリムさんは右足が不自由な状態であり、本来であれば、杖がないと歩くのもままならない状態です。またカリムさんは、我が国において糖尿病も発症し、現在も体調がすぐれておりません」  被告人は歩行にも差し障りがある健康状態で就業どころではない。だが、寄る辺のない異国で生活費が必要という現実がある。弁護人は被告人が違法の薬物売買に手を染めたきっかけについてそう説明します。 検察官「不慮の事故で足が不自由になったからといって、正業につかず違法な事業を営んで収入を得ることが正当化される余地がないことは言うまでもない」 検察官「被告人の場合、そもそも不法残留であり、日本に滞在していることが許されていなかった」 検察官「さらに被告人は密売によって得たお金を、最低限の生活のためだけではなく、ディスコやキャバクラなどの接待飲食店などで豪遊するなどし、遊興費にも使っていたのですから、被告人は、本件密売事業に至った経緯、その利欲犯的動機に、なんら酌むべき事情はありません」

イラスト/西舘亜矢子

 被告の状況は気の毒ではありますが、上記の検察官の正論に太刀打ちするには及ばなそうです。弁護人の主張に目を引くものがあるとすれば、被告がみずから覚せい剤を日本に持ち込んで密売ルートを開拓したり、組織の末端として売買したのではなかったということでしょうか。被告は元々あったマーケットを引き継いだに過ぎないというのです。 弁護人「(前略)被告は東京で知り合ったイラン人であるジャバドさんが、我が国から母国であるイランに帰ることになったことをきっかけに、ジャバドさんがそれまで行っていた覚せい剤などの取引に必要な携帯電話、売り主である日本人に関する情報、携帯電話にすでに登録されている買い主である顧客12人に関する情報を引き継ぎ、覚せい剤などの売買に関わるようになりました」  この弁護人の主張は(売ったことにかわりないからと)罪の軽減には繋がらなかったのですが、前科がないことは考慮されたようで、検察の懲役10年、弁護人の懲役6年相当が妥当という両者の主張の間をとった判決に落ち着きます。
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※斉藤さんのnoteでは裁判傍聴記の全文を公開中 https://note.mu/so1saito/n/nb6bde5f57745
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