ラブホ不毛地帯の中央線沿線、唯一の希望は阿佐ヶ谷にあった/文筆家・古谷経衡
同物件は、JR阿佐ヶ谷駅から商店街を抜けた隘路の一角にあるが、周辺は職住混淆の雑多な商業地域に囲まれている。しかし意外にコインパーキングが多いので、そういった付近の駐車場にクルマを泊めてぶらりと立ち寄ることのできる利便性があるし、なにより中央線特有の零細飲み屋街のただなかにあるため、飲酒後の寝床としてはこれ以上の立地はない。まさに奇跡のような一等地にそびえたつのが「Sプリ」なのだ。
しかし、なぜヒトは中央線沿線に羨望のまなざしを向けるのであろうか。不動産会社やデベロッパーなどが実施する「住みたいまちランキング首都圏版」では、必ずその上位に、吉祥寺、荻窪、阿佐ヶ谷、高円寺などといった中央線沿線の街々が登場する。
ラブホテルが碌にないこの地域は、独りラブホを極める筆者からすると不便極まりない三等地であり、住宅地の値段は現在の1/5~1/6程度が妥当だと考えるが、KUSOみたいな東京発のドラマや映画を見て「中央線沿線に住むことが一等何かステータス」と感じている田舎出身のBAKAな群衆にとっては、35年ローンを組んででもこの地に住みたい羨望の対象となっているのであろう。実に情けなく、そして実に不動産屋の「カモ」としてはこれ以上非の打ちどころのない、暗愚な人々である。
ラブホテルのあるところに物語はあり、ラブホテルのないところに物語はない。阿佐ヶ谷という巨大なラブホテル空白地帯の中での「Sプリ」の存在は、この街が単なる無価値な風景を提供するだけの、カストリ以下になり下がる崖っぷちでそれを踏みとどめてくれる、唯一無二の神聖なものだ。
●ラブホテルQ&A
Q ラブホテルに入ったら、絶対にHなことをしなければならないのですか?(34歳、会社員、男性、埼玉県)。
A また馬鹿な質問が来ました。というか手前、この連載の趣旨を理解してないんじゃないですか?独りラブホ、だと何度も何度も言うているではないか。独りラブホということは、入ってから出るまで徹頭徹尾、独りでいるということであるのだから、所謂「Hなこと」というものとは存在しないのである。
ははあ。なるほどこの質問者は、それを諒解したうえで、独りラブホを公言すると「でも、どうせ後からデリヘル嬢なんぞを呼んでいるんだろう」と後ろ指をさされるがごとき周囲の言われ無き誹りを気にしているのかもしれぬ。
しかし、独りラブホは本当に最初から最後まで一人で完結しているもので、そこに後から、素人であろうが玄人であろうが、異性が闖入するというシュチュエーションを全く想定していないのである。独りラブホは孤独・孤高の道であり、そして一人精神を開放する聖域なのである。
ラブホ視点でみれば三等地
―[独りラブホ考現学]―
(ふるやつねひら)1982年生まれ。作家/評論家/令和政治社会問題研究所所長。日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。20代後半からネトウヨ陣営の気鋭の論客として執筆活動を展開したが、やがて保守論壇のムラ体質や年功序列に愛想を尽かし、現在は距離を置いている。『愛国商売』(小学館)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか』(晶文社)など、著書多数 1
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