更新日:2019年05月19日 22:17
恋愛・結婚

柏市の辺境にあるラブホテルは、中世ヨーロッパの城だった/文筆家・古谷経衡

独りラブホ考現学/第9回

工業地区のただなかに、ライトアップされて浮かび上がる“ブルージュ”の威容

大青田のなか突如出現する異様な建物

 常磐道柏インターチェンジで降りると、そこは「柏IC」とは名ばかりの同市の辺境、田園地帯にでる。正確には千葉県柏市大青田(おおあおた)。柏市は人口40万人超。千葉県第5の都市である。  同市は平成20年に中核市に移行している。市内にはJR常磐線が東西に走り、南北には東武野田線が縦貫する。  2005年にはつくばエクスプレスが開通したことから、にわかに同市内沿線にある「柏の葉」(柏の葉キャンパス)が注目を集め、タワーマンションが乱立・集約することになった。  90年代には距離的にみて東京に近い松戸市をすっとばし、「東の原宿」との異名を冠した柏市には、現在でも新興住宅街、ベッドタウン、若者の街のイメージがあるが、ここ大青田に至ってはその感慨も消え去り、もはや茨城県に近いうらぶれた県境である。  付近には国道16号線の大動脈とその沿いに点在する物流倉庫などの工場地帯、そして雑草が繁茂するだけの荒れ地が、ただただ広がっているのである。  この大青田をいくと、突然異様な風体のラブホテルに出くわす。とはいえ前述の通り付近の工業団地は同じような景色が続くので、該物件に確実に到達しようとするなら、カーナビゲーションがないと不可能であろう。“白亜の城”と形容してふさわしい同城は、近づけば近づくほど近隣の景色とあまりにも違いすぎるので度肝を抜かれる。

「中世ヨーロッパの宮殿を再現しました」

「当ホテルは中世ヨーロッパの宮殿を再現するため、イタリアより職人を招き、細部に至るまで忠実に作り上げました。家具、調度品はヨーロッパ各地より厳選し、取り揃えましたので日本にいながら、猫足バスなどの、欧州高級ホテルスタイルを堪能して頂きます…」  とのホテル側の説明がある通り、実に“城”がそこに鎮座ましましているのである。柏にある中世ヨーロッパの城、ラブホテル『ブルージュ』である。

“ブルージュ”の入口

 駐車場に車を止め、物件中に入るとそこは大広間になっている。この開放感。独りラブホ歴十数年の私からしても、ここまで開放感のあるロビー構造を持った物件は唯一無二であろう。

開放感のあるロビー。天井にはシャンデリアが

 このホテルの特異なところは、その外見だけではない。24時間365日、所謂都市型ラブホの定番である「休憩(2~3時間)」「サービスタイム」「宿泊」の区別が一切なく、いきなりチェックインしてから「6時間コース」「10時間コース」「16時間コース」の三択以外に客の選択肢はないのだ。  要するにホテル側にとって最も稼ぎ時といえる「土日祝前日」の高料金設定というものが、この物件には一切ないのである。だから例えば土曜日の午後4時にこの物件に入れば、16時間後の翌日朝8時にチェックアウトすればよい。私のような不規則極まりない生活をしている人間にとっては、天の恵みとも呼べる物件である。  しかしそれと引き換えに、立地を勘案すると当然全体的に室料は高め。おおよそ安い部屋で9,000円~、標準よりやや豪華な部屋で12,000円~(共に16時間)となっているが、この自由度を考えれば決して割高とはいえないのだ。

怪しげなマスクの数々。これも欧州からの輸入品なのか…?

廊下に無造作“?”に並べられた欧州風のチェアーの数々

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映像作品のロケ地としても…
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(ふるやつねひら)1982年生まれ。作家/評論家/令和政治社会問題研究所所長。日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。20代後半からネトウヨ陣営の気鋭の論客として執筆活動を展開したが、やがて保守論壇のムラ体質や年功序列に愛想を尽かし、現在は距離を置いている。『愛国商売』(小学館)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか』(晶文社)など、著書多数

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