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京アニ放火殺人、容疑者に責任能力はある? 精神鑑定の仕組みを解説

精神科医が最終決定を下すわけではない

 起訴後に裁判所の判断で行われるのが「公判鑑定」だ。鑑定を依頼された精神科医は、当該事件の調書をはじめ、過去の犯罪の調書、公的な記録や資料などに目を通す。 精神科医 また、被告人本人はもちろん、出生から今までのことを親・兄弟・親族、学校関係者、職場関係者、病院関係者などへの面接を行ったり、問診等を行い、医学的考察、必要な知能検査・心理検査等を行った上で、被告人の診断や精神疾患が犯行に与えた影響などについて鑑定をする。  裁判官や裁判員には必ずしも精神医学の専門知識があるわけではないので、精神医学の専門家である精神科医に精神鑑定を依頼し、精神医学的な知識や経験を補う必要がある。従って裁判所に提出される「公判鑑定」結果は細部に及ぶものとなる。しかし、鑑定人である精神科医はあくまでも参考資料を提出するだけで、最終的な決定をするわけではない。

精神科医によって鑑定結果が変わる可能性

 最も大事な鑑定人に関しては、通常は裁判所から精神科医に命令されるものだ。司法精神鑑定を実施する鑑定人は、精神科医である必要性はなく、臨床心理学者であっても問題ない。そのため、鑑定人によって鑑定結果が違うものになってしまう可能性もあるのだ。  鑑定にあたり、参考資料となる供述調書は、直近の情報のため、かなり有益な情報である。しかしその反面、犯行時の精神状態を誤って診断してしまう可能性もある。なぜなら捜査記録は捜査官の主観にかなり影響されるということ、また、供述する者の記憶の誤りや願望によって歪曲されることもあるのだ。そのため鑑定を行う人物は、公正さはもちろん、経験と熟練が必要なのはいうまでもない。  おそらく今回のケースでは、起訴された場合、裁判では責任能力の有無が争われることになるのは間違いないだろう。その時、裁判官や裁判員は精神鑑定を尊重した上で、判決を下すことになるのだ。  現在、最も望まれることは容疑者の容態が回復し、犯行動機を本人の口から聞き出すことだ。そうでなければ遺族、関係者もやりどころのない怒りを抱えたまま一生を過ごすことになってしまう。そして正式に法の裁きを受けることこそが、弔いになるのではないだろうか。犠牲になった方々には改めてご冥福をお祈り申し上げたい。 <取材・文/ジャーナリスト・草薙厚子> 【草薙厚子】 元法務省東京少年鑑別所法務教官。『少年A 矯正2500日全記録』『本当は怖い不妊治療』『となりの少年少女A』など著書多数。事件取材をとおして精神鑑定にも詳しい
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