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怒号と絶叫が飛びかった「足立区青井」の一夜/清野とおる×パリッコ

「50点満点中50点の美味しさですよ!」

 さすがだ。店側が塩で食べてもらいたいものをタレで頼んだ日には、この大将にならぶっ飛ばされかねない。そういう意味で、この「おまかせ」というチョイスは唯一の正解といえる。が、次の瞬間。 大将:いや~、こればっかりはお客さんの好みだから、私の方では選べないな~。  と、申し訳なさそう~な笑顔。なんだ、普通のいい人だ! 全然こわい人じゃなかった!  とたんに安堵した我々のもとに届いた料理たちはどれもちょうど良い美味しさで、清野さんいわく「50点満点中50点の美味しさですよ! 100点満点中ではなく、50点満点中! こういう店が一番いいんだよな~、結局」とのこと。あとから考えてみるとよくわからない採点だが、その時はなんだかすごく納得できた。いや、いい店だった。ごちそうさまでした。
清野

イラスト/清野とおる

「トールタン」の正体に“とおるたん”が迫る

 青井駅周辺は、はっきり言って閑散としている。が、少し歩くと「兵和通り商店街」という通りがあり、飲食店の灯りもちらほら見える。なぜ「平」でなく「兵」という文字が使われているのかは若干気になるものの、ここを散策してみることに。
青井

「さっきこんなツイートしちゃってさ~」と銅像に話しかける清野さん

青井

つぶれてしまっていたことが残念でならない居酒屋

 商店街をおよそ端まで歩くと、「五月」という居酒屋の看板に「生ホッピー」の文字が見えた。清野さんの「生ホッピーつながりでここにしてみますか」という一言により、2軒目が決定する。  「五月」は、日本人の大将とフィリピン人の女将さんが和気あいあいと切り盛りする、心温まる名店だった。メニューには、一般的な居酒屋料理とフィリピン料理が混在し、迷いがいがある。中には「トールタン」なる謎のメニューもあり、“とおるたん”としては頼まないわけにはいかないと注文したものの、玉子アレルギーの清野さんには絶対に食べられない、具沢山のフィリピン風玉子焼きが出てくるという一幕にも和んだ。
青井

「バーベキュー( 鳥)」は800円ですごいボリューム! フィリピン独自のスパイスの風味があとを引く絶品

青井

「トールタン」

 常連さんたちとも「取材で来たの?よく青井になんて来てくれたね~」と和やかに打ち解けられた。そう、いくら清野さんが一緒といえど、理不尽な出来事が起こらないと読み物として成立しないわけじゃない。この本は「酒場人」。のんびりと酒場を楽しみ、その様子をレポートする。それでいいじゃあないですか。と、全員で確認しあい、このまま平和な気持ちで帰路に着こう。この時はそう思っていた。  そう、最後の一軒に行く前は……。
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何かが起こる予感がした…カラオケ居酒屋
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