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怒号と絶叫が飛びかった「足立区青井」の一夜/清野とおる×パリッコ

何かが起こる予感がした…カラオケ居酒屋

 もう十分だった。うまいものもたくさん食べたし、酔いもきっちり回っている。しかも地元駅までは乗り換えも多く、終電もそう遠くない。ここで帰る以外の正解なんて、はっきり言って“ない”。だが、読者の方にはわかってもらえるだろう。 「最後にもう一軒だけ寄って帰りましょう」。  この気持ちが。もちろん異論をとなえるものはいない。我々は再び気まぐれに歩き、目についたカラオケ居酒屋に入ってみることにした。入店した瞬間、心がざわめいた。明らかに何かが起こる予感がした。そう広く無い店内は、なぜか老人客のみで満席に近い。さらに、照明が異常に黄色い。「青」でも「赤」でもなく、「黄」。とりあえずひとつだけ空いていたテーブルに着き、店内を見回す。  全員常連なのだろう。会話があっちこっちで飛び交い、常に誰かがカラオケを歌い、大変賑やかなだ。そうこうしていると、お店のマスターと女将さんが挨拶にきてくれた。とてもにこやかにメニューの説明もしてくださる。
青井

一番フレンドリーだった「野球帽のおじさん」

青井

と、一緒に「ゲゲゲの鬼太郎」を熱唱する清野さん

 なんだ、ちょっと変わってるけど愉快なお店なんじゃないか。よし、楽しもう! ……そんな前向きな気分ですごせた時間は、やはりそう長くは続かなかった。

「オメェなんて怖くもなんともねぇんだよ!」

 ワイワイガヤガヤと盛り上がる店内に、何やら怒声のような響きが混ざりだす。
青井

あれ? もめごとの気配が……?

 と、思う間もなく、
青井

ついに始まってしまった!

 喧嘩沙汰だ。どうやら我々のすぐそばで飲んでいた「緑のおじさん」が、奥の「ベストのおじさん」に向かって、なにごとかキレているらしい。しかも一番近くにいた清野さんは、仲裁する羽目に。 緑のおじさん:バカ野郎! てめぇこの野郎、ぜってぇ許さねぇからな! 清野:まぁまぁ、一回落ち着きましょうよ。 緑のおじさん:ウー……。 ベストのおじさん:オメェなんて怖くもなんともねぇんだよ! 緑のおじさん:なんだとこの野郎!? よく言ったなてめぇ! 清野:まぁまぁ、一回落ち着きましょうよ。  緑のおじさんがガタッと立ち上がっては、清野さんをはじめ周囲の常連さんが押さえつける。こんなことを何十回もくり返しているうち、事態はさらに悪化。いつの間にやらあっちにいた「デニムシャツのおじさん」も「パジャマっぽいスウェットのおじさん」も、なぜかみんなキレだしている。  な、なんなんだこの状況は!  あっちのおじさん同士のバチバチと、こっちのおじさん同士のバチバチが、店内で交差しまくっている。その様子は、さながら漫画『デビルマン』冒頭のシーンにあった「サバト」だ。
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やはり、そういう”磁場”があるのか?
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