更新日:2023年04月18日 11:19
ライフ

「セクハラ加害」に怯える潜水艦乗組員。禁断の女性登用に踏み切ったが…

潜水艦が禁断の「女性登用」に踏み切った

潜水艦

海上自衛隊HPより引用

 陸上部隊では男女別に風呂やトイレ、宿泊施設を整備するこが可能です。しかし、潜水艦内では居住に使える区画が極度に限られています。我が国には大型の原子力潜水艦は存在せず、みな小型の通常動力型です。男だけの世界であった潜水艦への女性登用では、この更衣室のないシャワールームが一番の難問となります。すべての職域を解放することが果たしていいのかを、女性乗艦が準備段階に入っている今、もう一度考えたいと思います。  潜航中の潜水艦は音を出してはいけません。不明潜水艦を見つけるためにソナーマン(海中の音源を探知する専門官)が深海の音を探っていますが、相手も同時にこちらの音を探っているのです。潜航中の潜水艦で音を出せる時間は制限されており、「今なら音を出しても大丈夫」と判断された僅かな時間にシャワーを浴びる許可が出ます。潜水艦乗組員は1人3分ほどで頭と体を同時に洗うのです。  次々とシャワールームに入って短い時間ですぐに出ないと全員にシャワーが回りません。だから、潜水艦乗組員はパンツ一丁や裸でシャワールームの周りで待ちます。これは次々とシャワーを使うための生活の知恵です。  男だけしかいない艦内では「裸の男性がシャワー待ち」でも問題ないでしょうが、ここに女性乗組員が入ったらどうなるでしょうか。まさか男と一緒に並ぶわけにはいかないですよね? カーテンで仕切るだけでは、「キャッ。見たわね!」という悲鳴が聞こえることになります。  男女別のシャワー時間を設けるにしても、女性が2、3分ほどのシャワータイムで我慢できるでしょうか? 全員がシャワーを使えなければ衛生上の問題となります。潜水艦内はとても狭く、お互いの距離はどうやっても近くなります。女性にシャワーを譲るとしても、艦内にはシャワーを使えない男性の汗臭い体臭が立ち込め、ただでさえ狭い密閉空間では、双方ともに想像以上に辛いことになります。

食事を摂るのも「セクハラ」を気にしながら

 潜水艦の食事スペースはとても狭く、乗組員たちは食堂のテーブルに右手を前に突き出し、左肩を引く姿勢で座ります。潜水艦乗組員たちは右手で食べ、左手はテーブルについたりせず垂らす姿勢を取ります。 潜水艦食堂 狭いテーブルでは斜めに人が入った方がたくさんの人が同時に食べることができるという生活の知恵です。ただ、男性ばかりの艦内なら体が触れ合ってもセクハラにはなりませんが、隣が女性だったらどうなるでしょうか? 狭い食堂内で女性の胸に肘が当たればセクハラと言われちゃいます。  そもそも艦内が絶対的に狭いので、あちこちで女性と男性が近距離にいて接触します。ロマンスを心配するというより、セクハラと訴えられないように神経をすり減らす状況になります。噂では、潜水艦では「女性乗組員が来たら腫物に触るように扱え!」と指示が出たと聞きます。  狭い閉鎖空間で神経をすり減らしながら働く男性乗組員。ギスギスした空気は当然、女性乗組員にも伝わるでしょう。このような特異な職場環境では、優秀な潜水艦乗組員も我慢に我慢を重ねた末、違う職場を求めて離れていってしまいます。
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潜水艦は「女性登用」よりも「給料増額」を
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おがさわら・りえ◎国防ジャーナリスト、自衛官守る会代表。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。『月刊Hanada』『正論』『WiLL』『夕刊フジ』等にも寄稿する。雅号・静苑。@riekabot


自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う

日本の安全保障を担う自衛隊員が、理不尽な環境で日々の激務に耐え忍んでいる……


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