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自衛隊に若者が来ない。人手不足で「定年延長」することの大問題

小笠原理恵「自衛隊ができない100のこと 59」

新卒学生売り手市場は自衛隊にとっては「逆風」

 民主党政権時代まではリーマンショックの影響もあり民間企業の雇用は氷河期でした。その当時は公務員の収入が比較的民間企業よりもよく、倒産やリストラがないことから大卒者も多数自衛官を目指していました。当時の自衛官の一般曹候補生の試験では70点以上が合格ラインで自衛官になれずに涙を呑んだ人達もたくさんいました。不況は自衛官募集のためには好都合でした。しかし、安倍政権になりアベノミクスの成功で雇用が改善されました。厚生労働省によると平成31年3月大学等卒業者の就職率は97.6%(4月1日現在)で高水準です。しかし、自衛隊員募集には逆風です。
自衛隊

画像は公式Twitterより

 防衛省のパンフレット「数字で見る!防衛省・自衛隊」に掲げられた表で見ると自衛官数のもっとも多い3曹の俸給月収は19万6700円から31万400円までとなっています。もっともキツイ仕事をしている現場の自衛官の大多数の賃金がこれでは寂しい限りです。自衛官には残業手当、休日手当はなく災害派遣では昼夜問わず不眠不休の作業があります。危険で様々な制限がある自衛官がこの賃金では低すぎます。自衛隊への就職希望者を増やすならまず賃金改正です。  自衛官の募集を見ても「やりがいのある仕事」というやりがい押しの募集となります。「やりがい」を前面に押す企業はほかに魅力を打ち出せない「ブラック企業」だと学生たちは熟知しています。ネットが普及し自分の就職の情報は簡単に手に入ります。職場の不自由さ、賃金待遇の不平不満が巨大掲示板や元自衛官のブログ等にいくらでも転がっています。情報はネット上に溢れかえっていて隠すことはできません。自衛官の仕事は厳しく不自由を強いられます。その仕事内容を変えることができないのですから、若い募集対象者を振り向かせるには賃金と待遇改善しかありません。  私の個人SNSに自衛隊の募集に不利な情報を記事に書かないでほしいというコメントが防衛省の元リクルート担当者からあります。しかし、情報を隠蔽したところで入隊後に退職されては元の木阿弥です。募集ノルマを達成するために耳障りのいい情報だけ並べても事実は隠し通せません。募集対象者の情報獲得スキルを舐めてはいけません。同世代の求職者同士で様々な情報が交換されます。どんな職場なのかはすぐにバレます。 「隠すより、変える!」ことです。変えれば募集ノルマも簡単に達成できます。
自衛隊

画像は公式Twitterより

人材不足の突破口 「募集年齢拡大」と「定年延長」

 防衛省は深刻な人材不足に陥っています。平成30年10月から、自衛官の採用年齢の上限を現行の26歳から32歳に引き上げ対象者を増やすことで、充足率を上げようと考えました。さらに定年を延長する方針も固め、潜水艦などこれまで女性に解放されていなかった職域を拡大しました。女性を積極的に登用することで穴を埋める手をなりふり構わず始めました。どれも付け焼刃の処置ですが、一時的には充足率は上がります。  採用年齢拡大は効果を出しています。これまで就職枠から外れていた年齢の人々や自衛官を退職した隊員が再び入隊する例もあります。ありがたいことだと思います。
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画像は公式Twitterより

 女性の職域拡大もかなり進み、陸上自衛隊では普通科、施設科、機甲科などの職域にも女性が増えていると聞きます。普通科はいわゆる歩兵です。機甲科というのは戦車、偵察部隊です。施設科は作戦行動で前線に赴き、普通科の突撃用の突破口を作ったり山に穴を開けてトンネル掘ったり、川や河川に橋を作ったりする部隊です。最前線への女性進出は画期的ですが、裏を返せばそれだけ人員不足だということです。
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「定年延長」がもたらした組織としての“弊害”
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自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う

日本の安全保障を担う自衛隊員が、理不尽な環境で日々の激務に耐え忍んでいる……

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