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目黒虐待死/母親はなぜ父親に従ったのか? 暴力を受け続けた女性が体験した心理

 東京都目黒区で船戸結愛ちゃん(当時5歳)が虐待された末、死亡した事件の判決が出た。10月15日、東京地裁は父親・船戸雄大被告(34歳)に対して、保護責任者遺棄致死の罪などで懲役13年の実刑判決を言い渡した。  母親の優里被告は9月に懲役8年の実刑判決を受け、これを不服として控訴している。
船戸結愛ちゃん

船戸結愛ちゃん(フェイスブックより)

 一体なぜ、父親自身も母親も、暴力を止められなかったのかーー。  実兄の家庭内暴力から15年間逃げられなかった体験を持つ、フリーライターの吉川ばんびさんが考察する。(以下、吉川さんの寄稿) ※この記事には、一部虐待、DVに関して直接的な表現が含まれます。あらかじめご了承の上、ご自身のご判断でお読みください。

加害者を一時的に叩くだけでは…

 母親に懲役8年(控訴中)、父親に懲役13年の判決が言い渡された「目黒女児虐待事件」。結愛ちゃんが受けた虐待の凄惨さが連日、事細かに大きく報道され、多くの人々が胸を痛めたことでしょう。  結愛ちゃんの両親を厳しく非難するムードが高まる中で私たちが忘れてはならないのは、虐待が行われている家庭ではどのようなことが起きているかを知り、考え、再発を予防する「最終目的」のことです。怒りの感情にまかせてただただ「加害者」を一時的に叩き、社会から排除して終わるのではなく、このような痛ましい事件を、被害者を、加害者を、再び生み出さない社会づくりに繋げなくてはならないのです。  なお、本記事は、現在(2019年10月15日時点)公判で明らかになっている情報をもとに事件の背景にある問題点について言及するものであり、被告人を擁護・または減刑を求める主旨の内容ではないことをはじめに申し上げておきます。

母親なぜ止めなかったのか、なぜ逃げなかったのか

 義理の父によって虐待が行われるケースは、今回の件のみならずこれまでも多くありましたが、実母に対して「なぜ止めなかったのか」「どうして子どもを連れて逃げなかったか」と思うのは自然なことだし、幼い我が子への暴力を制止しなかったことに怒りを覚えるのも頷けます。
逃げられない

写真はイメージです(以下同)

 しかし、「家族」というもっとも閉鎖的なコミュニティにおける問題のほとんどは逃げ場がなく、事件に発展するまで、外に出ることがありません。これは主に、当事者を含む日本社会において「家庭内の問題を知られるのは恥だ」という認識が根付いていることや、家族同士のトラブルに関しては、外部に助けを求めづらい社会構造が背景にあると考えられます。  結愛ちゃんと優里被告は、事件が発覚するまでの約2年間、雄大被告の支配下にありました。家庭内で力の大きな「支配者」が生まれてしまうと、対抗できるだけの力を持たない「被支配者」は、生き延びるために、支配者の命令に従うほかありません。これは、恐怖による屈服です。  優里被告は公判で、結婚前の雄大被告について「8歳年上で、広い世界を知っている人。何でも教えてくれる憧れの人だった」と話しています。彼女が雄大被告を「たいへん優れた人である」と尊敬し、「この人の言う通りにしていれば、きっと立派な子に育てることができる」と全幅の信頼を寄せてしまった。このことが、致命的だったのではないかと思います。

毎日1~3時間「説教」する夫、依存する妻

 公判で何度も出てきた「私が馬鹿なので」「私は無知なので」という優里被告の発言からは、彼女の自己肯定感がひどく低いことが見てとれます。  それは雄大被告が、優里被告が第2子(雄大被告との実子)を妊娠した頃から、彼女に対して執拗に説教をして、子育てのしかたを否定し続け、説教が終わったら彼女に「怒ってくれてありがとう」と言わせたり、反省文を書かせたり、顎をつかんで頭を上下に揺さぶったりなど、異常とも言える行動によって服従させようとしていたことが大きな原因かもしれません。  実際、はじめは結愛ちゃんへの暴力に反発していた優里被告は、次第に「彼が正しい」と考えるようになり、「私の育て方が悪かったのだ。結愛のために説教してくれているのだ」と思い込むようになったといいます。  このようなプロセスを経て、優里被告にとって雄大被告はおそらく「この世で唯一、自分と子どもをまともな道に導こうとしてくれる人」となり、一種の洗脳状態に陥ってしまったように思えるのです。 怒り 自己肯定感の著しく低い人間が一度そういった状態になれば、「支配されること」に自分の存在意義を見出すことがあります。「自分を必要としてくれる人がいる」と錯覚し、支配者がいなくなると、自分の存在意義がなくなってしまうように感じたり、「見捨てられる」ことに強い不安を覚えるのです。  また、被支配者にとって、支配者は恐ろしい存在である一方で、離れられない存在であることも往々にしてあります。DVや家庭内暴力でも、被害者が加害者から逃げられない原因の一つに「依存心」があるように、被害者にとって「加害者が優しくしてくれた記憶」は、簡単に忘れられるものではありません。  すべて意図してのことか否か、雄大被告はこうして、優里被告を完全な支配下に置くことに成功したのだろうと思います。
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筆者が経験した暴力という日常
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