スポーツ

パラカヌー女子代表・瀬立モニカ。両下肢まひの苦難から一転、世界を目指す

基礎代謝は健常者の2分の1

 食事メニューも徹底管理している。食べたものは全部写真に撮って、グループLINEで栄養士に報告。そのうえで細かく指導を受けているという。食事を作るのは、瀬立と生活をともにするコーチの役目だ。 「車椅子の人って、普通に歩いている人と比べて基礎代謝が2分の1だと言われているんですね。だから健常の選手みたいにバクバク食べるわけにはいかないんです。でも、その中で必要なたんぱく質やビタミンは補給していかないとダメ。毎日、体重も測っていますよ。スピードを争う競技だから軽いほうが有利だと思われるけど、外国人選手に負けないようなパワーも必要ですから。そのへんは神経を使うところです」  カヌーを辞めようと思ったことはない。ただし、心がくじけそうになったことは何度かある。最大の挫折はリオのパラリンピック。なんとか決勝には進んだものの、そこで待っていたのは強豪選手との圧倒的な実力差。瀬立はダントツの最下位に沈み、かつてない屈辱感を味わった。自分はこのままじゃダメだと思い知った。 「今思えば、自覚が足りなかったんですよね。精神面も甘かったし、単純に練習量も少なすぎた。たとえば練習内容にしたって、カヌーに乗るかウエイトするかくらい。メニューが少なかった。今だったらジョグしたり、体幹トレもするけど、視野が狭かったんです。リオはラッキーが重なって出られただけで、あのときの私のカヌーは“おままごと”みたいなものでした。……とはいえ、あのときは成長段階でしたからね。通るべき道だったのかもしれないと今では思えるようになりましたけど」  現在は筑波大学を休学中。競技一本に絞らないと、世界ではとても戦えないと悟ったからだ。一般的にカヌーの選手寿命は長く、40代~50代で活躍している選手もいる。しかし瀬立の場合、医者になるという明確な人生設計を持っているため、いつまでパドルを漕ぎ続けるかはわからないという。今はとにかく目の前の東京パラリンピックを目指すだけ。凛とした表情を崩さぬまま、「自信はあります」と前を見据えた。 せりゅう・もにか◎1997年11月17日、東京生まれ。江東区カヌー協会所属。中学2年から江東区カヌー部に所属していたが、高校1年時に体育の授業で倒立前転に失敗。体幹機能障害の後遺症で、胸から下が動かせなくなる。しかし翌年からカヌーに挑戦し、2014年、15年と日本選手権で連覇を果たす。15年の世界選手権で決勝にも進出。16年のリオ・パラリンピックに、カヌーで日本人唯一の出場。現在は20年の東京パラリンピックに向けトレーニングを積んでいる。趣味はジグソーパズル。「オフの日は、寝ているかパズルしているかですね。たまに気が向いたら、夕方になってからタピオカを飲みにいったりもしますけど。あとは書道も好きかな。もともとインドア派なんですよ。カヌーは100%“動”の競技だから、普段は“静”の趣味に没頭したいんです(笑)」 〈取材・文/小野田 衛 企画・撮影/丸山剛史〉
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