関東芸人が関西芸人に打ち勝つための武器とは?
――注目の若手コンビはいますか?
塙:今年の漫才協会の新人大賞を獲ったのは「おせつときょうた」でしょ。去年だと「おちもり」ですね。あとは「にゃんこスター」がいるんですよね。『キング・オブ・コント』で準優勝したコンビが漫才大会で何をやるのかっていうところは注目です。
――「漫才協会王座決定戦」ではナイツのおふたりは優勝狙っていきますか?
塙:いや、そんなに……(笑)というより、僕らが優勝しない方が本当はいいと思ってます。僕らを超えるような、もう「とんでもないスターが生まれてきてほしい」っていうのはあります。いい加減に背負ってるものをちょっと減らしたいですね。あと、もうちょっとみんなが売れてほしいってのはずっと思ってます。
――最近発売された著書『言い訳』の中でも「壮大な野望は、関東の後輩たちに託したいと思います。そうだよ、お前のことだよ」とありますが、そういった期待が常にある?
塙:あれはライターさんが気を遣って盛って書いてくれたフレーズで(笑)そんな風に言ったつもりではなかったので、ちょっと恥ずかしいんだよね……(笑)
――本の中では、漫才の本場である関西芸人に関東芸人が勝つには威勢のいい江戸弁がカギになるかもしれないとおっしゃってました。
塙:東京だと「~じゃん!」「~だよ!」って言うところが、関西だと「なんやねんお前!!」になり、凄くキレのよい感じがする。だからコンクールでは関西組の方が上位になる。でも、ビートたけしさんが使うような、「ばか野郎」や「なんだお前」などの歯切れのいい江戸っ子が使うような言葉は、もしかしたら漫才協会の芸人がM-1に優勝するための1つの大きな武器になり得る、という話。「ツービート」さんみたいなしゃべくり漫才コンビが出てきてM-1優勝したら最高にかっこいいじゃないですか。
――最近の若手で売れそうだなというコンビはいますか?
塙:具体的なコンビというより、また時代が逆行して、ちゃんと師匠がいる人がフューチャーされるのかもしれない。面白い面白くないとかじゃなく。
――それはなぜですか?
塙:お笑いの学校上がりの人は、基本的に師匠はいない。でも、その中でも売れた人って、多分「こういう人になりたい」っていう目指す先がいた人だと思うんです。
――「心の師匠」のような?
塙:そう。自分の中に明確なお手本がいる人は強いと思うんです。そういうのがなくて「単純にお笑いがやりたい」で学校入った人っていうのは、学校で教えることだけだからビジネスライクになる。最近の若手の漫才を見てても、みんな同じような感じになっちゃってる。結局、みんなお金ないからYouTubeやオンラインサロンを始める。芸人というよりもビジネスマンみたいな発想になっている気がします。
――良くも悪くもビジネスの上手な芸人さんは増えています。
塙:今だとすぐパワハラとか言われてしまいそうだけど、例えば師匠に弟子入りして、無茶ぶりを食らったり、合理的でないことを経験したりする方が芸人にとって肥やしになることがある。それを逆にネタにしたりね。自分がやりたいことだけやれるというのも、芸人としては少しかわいそうだなと思う。こいつらネタにすることないんだろうな、って。やっぱりお金で買えない経験をすることが芸人として一番面白い。なのに、今はお金を使えばやれることとか、自分の中の引き出しだけでやってる若手が多い気がします。
――確かにそれは思います。
塙:僕らの時は事務所から言われて25歳の時に82歳の内海桂子師匠の弟子になったんですけど、もうわけわかんないじゃないですか。師匠から30分間の漫才をやれとか無茶ぶりされて。でも今考えたらそれが経験としてはすごくよかった。だから別に全員がそうする必要はないんだけど、せっかく漫才協会に入ってる若手はそういうことを「おいしいな」と思ってほしい。
――今、お笑い芸人になりたい人は師匠につくより、お笑いの学校に通うっていう選択肢をとる人が圧倒的に多いですよね。
塙:逆に言えば、僕ら世代の「ロケット団」とか「宮田陽・昇」さんとか、そこらへんが弟子をとってほしいなって思いますね。さっきの真打ち制度を最大限に活かして。真打ちって弟子取れる制度だから。「弟子を取っていく」ってこと自体がちょっとおもろいじゃないですか。それって漫才協会しか多分出来ないと思うんですよ。唯一対抗できるとしたら師弟で対抗するしかない。学校がないからね。そういった面白さはやっぱり追求してったほうがいいなって思う。