「M-1が100m走なら、今年の漫才大会は75m走」
――著書の中で「M-1は100メートル走だ」とおっしゃられてますが、今回の漫才大会は何メートル走ですか?
塙:3分だから、75メートル走(笑)
――M-1よりもぎゅっと距離が短いわけですね(笑)いつも中距離(10分から15分のネタ時間)をやってらっしゃる方たちが超短距離に挑戦すると?
塙:だから、多分もう半分くらいアキレス健が切れる(笑)肉離れを起こすんじゃないかな。
――大変そうですね(笑)
塙:だけど、もともと漫才大会は全員出るからネタ時間が短いわけ。でも今までの大会は対決形式じゃなかったから、15分の漫才をただ3分ダイジェストでやってたんですよ。今回は全員対決になるからどうするのかなっていうのがある。そうやって、みんながいつもと違う準備をするのはいいことだと思います。対決用の筋肉にして、ここからまたちょっとずつ筋トレを始めてくれる人たちが出れば、山口さんの思った通りになるのかなと。普段の興行は東洋館に見に来てもらえればいいし。
――協会員の別の顔が漫才大会では見れる?
塙:特に今年はね。
――ナイツも着々と準備は進めてるんですか?
塙:僕らも意外に「んっ?やべっ?3分しかないな」っていうのがある。だから時間と、あとお客さんへの意識はいつもより高いかもしれない。ついてこれるかな、っていう。漫才大会のお客さんは年配の人が多いから。ちょっと難しいネタやった時にポカーンとならないかなとか。
――3分ですもんね。
塙:そう。それが大会の肝なので。でもガンガンお年寄りに合わせる人が優勝しちゃうと、毎年レベルがどんどん下がっていく。わかりやすいやつが一番強いみたいになるから。結局、そこが心配なところですよね。
「若いお客さんを増やして、少しずつ血を入れ替えていかないと、今後も芸人は育たないなって思う」
――やっぱり若い人に見に来てほしいっていうのはありますか?
塙:それはもうずっとですよ。東洋館でもそうだし。お年寄りでも、もちろん嬉しいんですけど、やっぱりお客さんが芸人を育てたりもするわけだから。
――どういうことですか?
塙:この前も、東洋館でトリだったんですよ。結構ネタをちゃんと作ってて、聞いてもらいたかったんだけど、トリだからもうみんな帰り支度とかするんです。ざわざわしてる。それはいつものことだからいいんだけど、おばちゃん三人組が結構でかい声でしゃべってる。それはやっぱり注意しました。ちょっとうるさいですよって。そしたら言い方が少しきつかったのかな、その人たちがすごい機嫌悪くなっちゃって。だけど、やっぱり他にいるわけですよ、お客さんが。例えば、初めて地方からお金払って見に来てくれて、やっと見れて、ちゃんとネタを聞きたいっていう人だっている。そういうお客さんのマナーというか、空気もちょっとずつ変えていかないと。
――そんなことがあるんですね。
塙:芸人も聞いてもらえないなら一生懸命にネタ作っても意味ないじゃん、ってなっちゃう。ちゃんとネタを作る人たちが、もう東洋館でやりたくないなってなると、どっちも損だと思う。結局、お年寄りによる、お年寄り向けのネタだけがウケる雰囲気になると、若手も入りづらい。だから、若いお客さんを増やして、少しずつ血を入れ替えていかないと、今後も芸人は育たないなって思う。厳しい言い方だけど、こっちも真剣にやってるから。やっぱり、芸人がそこに合わせないで、ちゃんとお年寄り以外にもウケるネタを真面目にやり続けていかないと、お客さんも変わらないんじゃないかな。
――いい環境作りにはお客さんの協力も必要ということですね。
塙:今の状況って、阪神の選手が育たないのと一緒なんですよ。藤浪選手なんかそれでつぶれちゃったんだから。甲子園のヤジがきつすぎて、甲子園で投げるのが怖くなっちゃった。全く同じだよ。それでも東洋館は一番のホームだからさ。漫才協会を応援してくれるんだったら、ちゃんと最後まで聞いてくれるお客さんたちがほしいなっていうのはある。
――最後に改めて漫才大会への意気込みは?
塙:初めての「漫才協会王座決定戦」なので、ここで一発、優勝したいですね!
――さっき「そんなに……」って言ってませんでした?(笑)
塙:一応、SPA!の読者向けに書いといて下さい!優勝目指して頑張ります!
厳しい言葉を交えながら、その端々に「漫才協会」ひいては「お笑い」への大きな愛を感じさせるナイツ・塙氏。11月30日(土)に開催される漫才大会ではどのようなネタで勝負してくるのか、見物だ。
取材・文/南ハトバ(僧侶兼ライター) 撮影/赤木瞬介