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“日本一接客態度が悪いレストラン”に連日行列ができるワケ。SNSの炎上は「狙い通り」、緻密すぎる戦略

接客態度が最悪…で、無敵です!

竹原大樹_エッジな人々

竹原大樹 / 日本一失礼なレストラン オーナー

 ひっきりなしに客が訪れ、取材が度々止まる。外には行列も途切れない。名古屋の中心から少しはずれた地にあるレストラン「the LAZY HOUSE」(ザ・レイジーハウス)が、SNSで“日本一接客態度の悪い店”として炎上したのは今年7月のことだ。店員の口が悪い、コップも皿もドン!と強く置く。しかし、訪れる客はそれを期待するようになっていく。「ただ旨いだけの店では、勝負できないじゃないですか」と、オーナーの竹原大樹が接客時と違い、柔和な表情で話す。SNS時代における新たな飲食店の経営スタイルを、竹原に聞いた。 ――弊誌取材班が入店したときも、「おい、エロい週刊誌が来たぞ!」と芯を食っていましたが、エッジの利いた悪口にはマニュアルがあるのでしょうか? 竹原:特にマニュアルはないんですが、身長・ジェンダー・人種などの先天的なことを言うのは禁止にしています。ただ、僕自身が学生時代から観察眼に優れているというか……性格悪いのか“越えてはいけない一線”を見極めるのが上手なんです。先輩もイジり倒してましたからね(笑)。例えば太っているお客様でも「隠しているデブ」と「ひけらかしているデブ」で、後者の場合は「腹が出てるから食いそうだな!」とイジれたりする。 ――なかなか初見で判断するのは、難しそうです。 竹原:入店時のファーストインパクトで判断します。「お前、案内してないのに勝手に入ってくんなよ!」で爆笑する人は、何言っても大丈夫。あとはおばちゃんも結構安パイ。町内会、PTA、宗教のババアなど、日常生活に繋げた悪口に笑ってくれますね。逆に苦手なのは、家族3人で来た、“ただ連れてこられただけのお父さん”だとわかった場合は、その人にはあまり触れません。 ――ほかの従業員さんも、悪口がなかなか過激です。 竹原:基本、スタッフのアドリブです。ただ、悪口を言えるスタッフの許可権は僕が決めています。騒いでいる客に対して「黙れ!」と言ったところで、面白くないし不快。霜降り明星の粗品さんだったら騒いでる人たちに「野党!」とひと捻りしてツッコミを入れる。悪口を一つ捻って上の段階まで引き上げれば笑いになる。新宿二丁目のゲイバーのママって口は悪いけど面白いじゃないですか? ああいう感じが理想です。 ――それでも怒るお客さんとトラブルになりませんか。 竹原:ないですね。入店前に一組ずつ説明をして、お帰りの際は店の外に出て笑顔でお見送り。接客中も“悪口の範囲”を見極めて従業員で共有する。結構緻密に接客しています(笑)。 ――ただ、さきほど、「おい、竹原いるか~!?」と“叫びぎみのお客”が突然来店しましたね……。 竹原:さっきのお客様は……正直ちょっと危うそうだったので、外に連れ出し、しっかり親身に説得させていただきました。店内で一回「なんだお前、気持ち悪いな、ちょっと外来いよ!」と罵ったのは、あのトラブルを見ている他のお客様に対するパフォーマンスです。 ――空気感を壊さない捌き方は、さすがでした。 竹原:TikTokで炎上し、連日YouTuberも取材に来るようになり、店に「一泡吹かせてやろう」という“輩”っぽいお客は正直増えました。でも、単独で来る勇気のある客はほとんどいない。だから、イチャモンつけてきたら「何だよ、仲間とそういうふうに言う打ち合わせしてきたんだろ?」と彼らの裏側を指摘する。100%そうなので、恥ずかしくて彼らも笑ってしまう。

バカなキッズを狙い計画的に炎上させた

竹原大樹_エッジな人々

ただ口が悪いだけじゃない。ひと捻りで「笑い」にする

――来年2月まで予約でいっぱいと聞きました。やはり“炎上”が大きかったのでしょうか? 竹原:あの炎上も、実は自作自演で狙ったものです。名古屋の中心地から少し離れた場所で、“夜も稼ぐ”のは容易ではなかった。認知度を高めるのには起爆剤が必要で、思いついたのが日本一接客態度の悪いレストラン。炎上の傾向は知っているので、まず隠し撮りのようなアングルで接客ぶりを撮影し、“一般客”としてTikTokに「こんなヒドい店があったぞ!」と投稿。すると、「えっ、これはマジ?」「こんな店ありえん。特定しろ!」って炎上して数日間で700万再生されましたね。 ――狙った通り、と。 竹原:僕の経験値ですが、TikTokのユーザーってバカなキッズが多い。だから最初から“接客態度が悪いお店”というコンセプトを理解した人は半分くらいかな。実は「AND TRICOT」という会社で企業のブランドSNSの企画・制作・運用を行っているので、SNSの反応を見るのはお手のものです。TikTokでは燃やしたけど、同時に運用していたInstagramではお店のコンセプトを前面に出して、調べればわかるようにしていたんです。現在はTikTokも第三者設定から店名に変えて、日々、炎上のための薪をくべ続けています(笑)。
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向かい風が、追い風に変わった
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