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部屋の中には老婆一人と大量のコッペパンと牛乳…この家で起きていたことは?

この家に何が起きていたのか?

 “直接の接触は避けるべし”というタブーを犯したが、そこで見聞きしたことを、私は例のご夫婦に報告しないわけにはいかないと強く思った。私からの報告を受けた彼らは、私がお母様に声を掛けたことよりも、実情が「想像通りであった」ことの方に衝撃を受けていた。  よくあると言えばよくある話だが、ご主人と弟、つまり長男と次男との相続絡みの確執が、事の始まりだったようだ。  脚元の弱ったお母様を、遠方から通ってきて世話していたのが長男とその嫁だった。時と共に訪問を要する頻度が増し、いよいよ同居する覚悟を決めたという。 ・隣接した住まいを作って、その片方に自分たちが住めば、緊急時にも助けられる他の部屋は貸して家賃収入を得れば、経済面でも安心できる  全ては「どうすればお母様が老後も安心して暮らせるか?」に焦点を絞って長男が考えたプランであった。  しかし、この話を聞いて不安に襲われる人物がいた。次男である。 「将来、1/2は遺産が来る」と信じて疑わずに生きてきたのか、定職にもつかぬ彼だったが、兄の計画を知り、自分が帰る最後の砦がなくなることを察したのだろう。同居も同然となれば、その住まいがそのまま長男に相続されかねず、自分が寒空に放り出されることを恐れもしたはずだ。  そして彼は、この計画を横取りすることにしたのだ。

法的な手続きを始める…と長男は話すが

 計画が具体的に進む少し前から、兄夫婦の目を盗んでは母親に接触し、「全ては自分が考えたことだ」「兄夫婦はうまいこと言って、あなたから全部むしり取ろうとしている」と吹き込んだようで、それを信じ込ませることに成功した。 海外旅行イメージ 建物は完成し、いざ長男夫婦も引っ越してこようとしたが、その段階になってお母様が猛烈に拒絶を始めたという。理由を聞いても「信用ならない」と邪険にされるばかり。変貌ぶりに驚いたまま、しかし取り付く島もなく時間は経過。そうこうしている間に弟が女を連れて転がり込み、まんまと隣の部屋に居座ってしまったというわけだ。そして、嫁と共に、海外をほっつき歩く。もちろんその財布は、本来お母様の生活費となるものであった。  このまま弟たちに資産を食い潰されるのも困るが、何よりも放置された母親が心配なので、法的な手続きを始めるために腰を上げると長男は言っていたが、母親が向こうについている状況では、証拠集めは難航しそうだ。  親をいたわる気持ちは間違いではないのだが、不動産を絡めた計画を検討する際は、少なくとも関係者(相続人)に周知させておかないと、思わぬところで足を掬われかねないといったところか。合意が難しくとも、目的や意図・資金の出処などを明確にしておかないと、疑心暗鬼になった人間は何をしでかすかわからないのだ。 「兄弟は他人のはじまり」。やはり、昔の人の言うことには含蓄がある。<文/古川博之進>
タワマンに住む会社員。不動産業、マンション理事長の経験を元に主に不動産業界のテーマを執筆。年100回開催経験から合コンネタも扱うが、保護猫活動家の一面も持ち合わせている。
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