キャリアの大三角形でレアなキャラを確立する
藤原:では、どう働けばいいのか? それの解決の糸口は、私たちの年収がどのように決まるかを知ることによって見えてきます。答えは至ってシンプルで、「需要と供給」の関係。つまり、希少性を高めてレアキャラ化できれば、市場価値が高まり、働き方をコントロールできるようになるのです。
高田:希少性と聞くと、ぐっとハードルが高くなったような……。
藤原:そんなことはありません。仕事でも趣味でも、ある一つのことをマスターするのに必要な時間は、だいたい1万時間といわれています。一日6時間なら5年で到達する。今が45歳なら、それなりの仕事量を経験しているはずですから、営業、経理など、まずはどういった仕事にどのくらい時間を費やしたのかを算出して“見える化”するのがいいでしょう。その上で、1万時間のジャンルを3つつくり、それぞれを繋いで「キャリアの大三角形」を形成する。例えば、“営業×企画×広報”など、3つのジャンルの掛け算ができれば、希少性はぐっと高まります。
高田:40代で1つ、50代で2つ、60代で3つ。可能性はありますね。
藤原:その上で、“営業×商品開発”、“ツアーコンダクター×介護士”など、会社員のうちに2つの足場を固めてから、土日起業や副業で小さく挑戦しつつ、3つ目を探すのがリスクの少ない生き方でしょう。運よく最後のピースも会社の中で築けるのなら、会社を辞めなくてもいい。
高田:希少性でいえば、僕は商品企画と宣伝の分野に関して社内で一番になりたいと思い、毎年提出する自己申告書に「マーケティング分野の部長として活躍したい」と具体的に記入していました。社内でナンバーワンになれないうちは、まだ盗める知識やスキルがあるということ。それならば、焦って独立や転職をする必要はない。
藤原:そして、社内で「マーケティングなら高田に聞け」と指名されるようになれば、立派なレアカード仕事人の証し。次のステップに進む、一つの目安になります。
52歳で今の生き方を発見。それが人生です(藤原和博氏)
高田:自分は部長としてレクサスのブランディングを経験できたことで、「トヨタさん」ではなく「高田さん」として勝負したいと思い、独立に踏み切りました。昨年は経産省の「産地ブランディング活動」のプロデューサーも務めました。
藤原:今、地方行政は高田さんのような独自の問題解決能力を備えた人材を求めています。静岡県富士市発のビジネス支援センター、通称“f-Biz”が注目されたことで、全国の地方自治体が公的産業支援のコンサルティングサービスに力を入れ始めています。報酬は地方自治体と国の折半で、なかには年収1200万円という好待遇も。ただし、結果を出さなければ、すぐにクビになりますが。
高田:仮にダメでも、そうしたレアなキャリアは武器になりますね。
藤原:そう、ダメでもいいから挑戦することが大切。最近の人は、結果ばかりを求めすぎる。
高田:昔の平均寿命が50歳、60歳だった時代とはまったく人生の時間軸は異なるわけで、今は40代、50代から挑戦したっていい。
藤原:「40歳は人生100年時代の元服」とする“40歳成人説”を採用していいと思う。残り40年を考えると、ライフワークを確立するのは40代でも遅くはない。むしろ、介護や病気など試練が訪れる人生後半戦に合った生き方、働き方を新しく模索すべき。かく言う私も、37歳で家族を連れて海外へ逃げて、47歳までふわふわした時期を過ごしました。そして、中学校の校長を5年やって、“教育界を改革しよう”と、今のライフワークを発見できたのが52歳のとき。人生なんてそんなものですよ(笑)。
“憂鬱な50代”を回避する3つのポイント
・ゼネラリスト的要素を兼ね備えたエキスパートは会社員の特権
・異なる3つのジャンルを掛け合わせてキャリアの三角形を築くべし
・40歳で成人式を迎えたと思えば、焦ることも生き急ぐ必要もない
【藤原和博氏】
’55年生まれ。教育改革実践家。都内では義務教育初の民間校長を務めた。著書に『45歳の教科書』(PHP研究所)、『100万人に1人の存在になる方法 不透明な未来を生き延びるための人生戦略』(ダイヤモンド社)など
【高田敦史氏】
’61年生まれ。ブランディング領域のコンサルティング業務を主に行っている。A.T.Marketing Solution代表。著書に『会社を50代で辞めて勝つ!』(集英社)
取材・文・撮影/谷口伸仁 藤野綾子 藤村はるな 椎原よしき アンケート協力/クロス・マーケティング