ぺこぱ(サンミュージック・結成11年・初)
ツッコミ担当松陰寺太勇、ボケ担当シュウペイからなるサンミュージック所属のコンビである。ボケるシュンペイ君に対して、ツッコみつつもフォローを入れたり、肯定したり、果ては観客に理解を求める松蔭寺君。そんな変化球漫才をするコンビである。
TBSで放送する「有田ジェネレーション」で、1人でレギュラーだった松蔭寺君。そのときに披露していたネタが、ビジュアル系バンドのようなメイクで、 前髪を長く垂らし、衣装は着物姿でローラーシューズを履いて登場する。そして、「キザ」というキャラクターで効果音に合わせて、前髪を動かし続け、「キザーン」という決め台詞を放つというネタである。
見たことがない人がこの説明だけを読んだら、和洋入り乱れて何が何だかさっぱりわからないと思うが、 とにかくこのネタが俺は大好きで、一緒に住んでいた彼女、現在の嫁とずっと家で2人でやっていたほどだ。しかし、ほどなくして松蔭寺君はネタ対決で破れレギュラーを降板させられる。そこから、コンビでの活動に力を入れたのかどうかは知らないが頭角を表し、今年の元旦に放送された「ぐるぐるナインティナイン」恒例となった若手発掘企画である「おもしろ荘」で優勝し、絶好のスタートを決める。
松陰寺君は着物を脱ぎ捨て、コンビでスーツに身をつつみ、漫才師として、さらにわかりやすさを増した「ぺこぱ」は、今年の締めくくりを「M-1グランプリ」決勝進出で決めたのだった。サンミュージックさんのネタ見せに参加した際、「ぺこぱ」のネタを生で見せてもらった。
前々から思っていたのだが、「ぺこぱ」はこの特殊な「システム」の説明を一切しない。そして、ツッコむ部分とフォローする部分。この緩急が俺には弱く感じた。弱いとシステム自体が理解されにくい。説明を入れないとなおわからなくなってしまう。そんな話をした。
それからの「ぺこぱ」は「システム」に対して説明は入れないが、前半わかりやすく、緩急も大きくつける。後半は、ツッコむ声量のまま、訴えかけるだけにしたりと展開も変えていった。それにより、この特殊な「システム」の幅が広がった。そして、準決勝の舞台では順調にウケをとっていた。後半、俺の好きだったあの頃の松蔭寺君を感じさせる部分で大ウケ。決勝進出を決めてみせたのだった。
決勝では、変化球の漫才であるから、絶対にトップバッターだけは避けたい。オーソドックスなスタイルの漫才を「振り」にするからこそ、変化球漫才は光るのだ。まだ平成だった2019年の元旦に始まった「ぺこぱ」の快進撃。令和となって迎えたその1年の締めくくりを「優勝」で完結させろ。キザーン!!
ツッコミ担当杉本青空、ボケ担当伊織からなる吉本興業所属のコンビである。九州学院高校の同級生コンビ。身長190センチの伊織君が、まさに「怪物」のような表情や動きでボケ、それを熊本訛りを活かしつつ抜群のワードセンスで杉本君がツッコむ。
「からし蓮根」は「漫才コント」を主流にしている。皆さんもよくお目にかかると思う「漫才コント」だが、簡単そうに見えて、こんなに難しいものはないのだ。
俺は数多くのお笑い養成所で講師をしている。そこでは、漫才の途中からコントに入る「漫才コント」をする生徒が多い。理由は2つあると 思う。まず「しゃべくり漫才」よりも「漫才コント」のほうがネタが作りやすいということ。そして、もうひとつが「サンドイッチマン」と「千鳥」の影響だと思う。
彼らは個々の力があり、個性も突出している。だから「漫才コント」をしても、ほかにはない個性的な漫才になるのだ。それが、そうでない人がやれば無個性のただの漫才になってしまう。「アマチュア」ならそれでもいいが、「プロ」は駄目だ。唯一無二の漫才を提供しなければ、飯が食っていけない。
そして、俺が「からし蓮根」の「漫才コント」を見たとき、「久しぶりに『漫才コント』 ですごいコンビを見た」という印象だった。 準決勝で見せた「からし蓮根」の漫才。「漫才コント」に入る導入部分を適当にするコンビが多い中、素晴らしい入り方だった。ちゃんと意味があり、ちゃんと笑いもある。その後は、しっかりとした右肩上がりの構成。そして最後は爆発。即フィニッシュ。完璧である。異論なく決勝進出を決めたと思う。
決勝初進出メンバーの中ではすべての面で一番上手であり、ネタ順が何番になろうとも大スベリすることはないだろう。ただ、この舞台は通常のネタ番組ではない。「M-1グランプリ」なのだ。荒削りだが「パッション」と「エナジー」を大放出しているコンビが魅力的に感じる舞台である。小さくまとまることなく、卓越された技術の中にも「パッション」と「エナジー」を忘れないでほしい。そのときは異論なく優勝が決まるだろう。弾けろ「からし蓮根」!!
ニューヨーク(東京吉本・結成9年・初)
ツッコミ担当屋敷裕政、ボケ担当嶋佐和也からなる吉本興業所属のコンビである。ボケる嶋左君に強烈な毒を効かせて屋敷君がツッコむ。しかし、その毒は嶋左君ではなく世間に向けられている。危険な漫才師、それが「ニューヨー ク」だ。俺も漫才師だった頃は「毒」のある漫才師で性格的にも尖っていた。だからかわからないが「毒」のある芸人が今でも大好きで、事務所の後輩ではあるが、彼らのイチファンである。
初めて彼らを見たのが「卒業式の合唱曲をDragonAshの『FANTASISTA』に変えてほしい」というコントだった。これが、めちゃめちゃ面白かった。その後、若手芸人ならば誰もが憧れる『オールナイトニッポン0』のパーソナリティに就任。俺はいろんな人のラジオをよく聞く。その中でも、必ず毎週聞いているのが「ナインティナイン」の岡村隆史さんとプロ野球解説者の金村義明さんのラジオだけ。あの頃は「ニューヨークのオールナイトニッポン0」も毎週聞いていた。
毒っ気のある彼らの話は面白い。後は大きなタイトルさえ取れれば、盤石だった。しかし「M-1」「キングオブコント」ともに結果が振るわない。一時彼らは社内で押されていると評判だった。しかし、後輩である「霜降り明星」が「M-1グランプリ」最年少優勝を果たし、「お笑い第7世代」が台頭。「『ニューヨーク』は押し終わりました」と揶揄する声も聞いた。そういう声が聞こえる中、今年に入り、彼らはYouTubeチャンネルを開設。視聴してみると、企画が面白い。芸人ならではの企画も多い。
そこで俺は気がついた。今、テレビ業界で「冠番組」を持っている芸人がどれだけいるというのか? その中で、純粋な「お笑い番組」をやっている芸人がどれだけいるというのか? みんな、そこに憧れてこの世界に入ってきたのに、それを叶える場所さえ地上波ではなくなっている。だからYouTubeなのである。
理想の「冠お笑い番組」を自分の手で構築する。今年、YouTubeを始めた芸人が多いのはそういった現象からなのかもしれない。そして「ニューヨーク」のスタンスも一切、変わってない。「ネタ」「ラジオ」「YouTube」、どれもすべて彼ららしさが全開である。どういった立場になろうが、どういった状況になろうが、ブレずに自分たちのスタイルを貫いた。そして、彼らは「M-1」決勝の舞台まで正面突破してきたのだ。
準決勝のネタは、危なっかしかった。もちろん、ネタの内容も「これは女性が怒るかな?」と思うところもあった。それだけではない。技術的にもヒヤヒヤした。声のかぶりも気になった。けれども「ニューヨーク」はそれでいいのだ。「もう少し柔らかい表現にしよう」とか「もう少しゆっくり言おう」とか、そんなことはどうでもいい。彼らは彼ららしく暴れればそれでいい。それが「ニューヨークスタイル」なのだから。あれだけ面白く、コンビバランスもよいコンビだ。優勝すれば必ず冠番組が始まるだろう。自分たちを信じて貫け!!
すゑひろがりず(東京吉本・結成8年・初)
ツッコミ担当南條庄助、ボケ担当三島達矢からなる吉本興業所属のコンビである。2人の衣装は袴、三島君は扇子を持ち、南條君はなんと小鼓を持って登場する。現代のさまざまなテーマを「歌舞伎」や「能」「狂言」などの伝統芸能で 披露するのが売りのコンビである。
彼らは現在東京吉本所属であるが、もともとは大阪吉本から芸人人生をスタートさせた。そう考えたら、純粋な東京からの決勝進出芸人は「ぺこぱ」と 「ニューヨーク」だけである。当然、個人差があるので一概には言えないが、漫才の技術力を比較すれば東京芸人よりも大阪芸人のほうが絶対上である。やはり四六時中、漫才番組をやっている大阪という土地柄からして、教材も多い。
一方、東京芸人は、変わり種の芸人が多い。東京は「テレビ=全国ネット」なのだ。是が非でもテレビでハマろうということを念頭に置いてネタを作ろうとする傾向にある。「すゑひろがりず」は大阪出身だが、このスタイルは東京で作ったのだ。いえば「大阪」で技術を磨き「東京」で個性を磨いた。理想時な流れであり、技術も優れている。
ただ、先入観とは怖いものである。準決勝での「すゑひろがりず」の出来は上々だった。だけど、決勝は行かないと思っていた。なぜかといえば「なんとなく」なのである。こんな服装だし、小鼓持っているし……。そういう部分があると見ている側も、そして本人たちも「言い訳」にできるのだ。
しかし、よく考えてみれば彼らは準決勝まで進出しているのである。準決勝に進出した時点で、敗者復活戦の出場は確定する。すなわちテレビ出演が確定。準決勝に上がるということは、そういうことであり、上がった時点でチャンスが大きく広がる。
そして、何より本人たちが「本気」だったのだ。このスタイルを一切の「言い訳」にしない。このスタイルだからこそ、俺たちの100%が出せる。このスタイルで俺たちは正々堂々と「M-1」に挑む。「すゑひろがりず」の決勝進出は波乱でも何でもない。
優勝するかどうかはどのコンビもわからない。ただし、間違いなく「すゑひろがりず」は仕事が増える。「M-1」決勝という「名刺」はとてつもなく大きく、テレビだけでなく営業など引っ張りだこになるだろう。大人から子供まで、誰もが楽しめる「演芸」。「すゑひろがりず」が「M-1」の舞台で花を咲かす!!
昨年は大会終了後、世間を巻き込む騒動があった。決して許されないことである。しかし、俺は心の片隅で思った。「『M-1グランプリ』は、もうここまでの大会になったのか」と。大会自体の尊厳を傷つける騒動とは裏腹に、「M-1」のブランド価値は完全にワンランク上がった。
2001年、名もなき漫才師たちが、得体のしれない大会に挑んだ。ゴールデンタイムの生放送。命を取られるのではないかという緊張感の中で、俺たちは「漫才」で殺し合った。
あれから18年、大会は年末最大のビッグイベントとなった。ただし、時代は流れても変わらないことがある。「PRIDE」。俺たちは漫才師である。「PRIDEを懸けた果たし合い」。さあしっかりと目を開けて見よ。俺たちの「漫才=PRIDE」を。 令和最初の「M-1グランプリ」王者は、俺たちだ。 <取材・文/ユウキロック>
1972年、大阪府生まれ。1992年、11期生としてNSC大阪校に入校。主な同期に「中川家」、ケンドーコバヤシ、たむらけんじ、陣内智則らがいる。NSC在学中にケンドーコバヤシと「松口VS小林」を結成。1995年に解散後、大上邦博と「ハリガネロック」を結成、「ABCお笑い新人グランプリ」など賞レースを席巻。その後も「第1回M-1グランプリ」準優勝、「第4回爆笑オンエアバトル チャンピオン大会」優勝などの実績を重ねるが、2014年にコンビを解散。著書『
芸人迷子』
今年もやります!! ラジオでM-1!!
12月22日(日)18時30分~22時30分
ABCラジオ/AM1008・FM93.3「ラジオでウラ実況!?M‐1グランプリ2019」
出演/ユウキロックほか
radikoからも聞けます!! 全国の皆さん!! 一緒にM-1を楽しみましょう!!